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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2007年9月13日付け

 バイリンガルに関する興味深い講演をきいた。二言語が使えると、二つの視点から世界を見ることができ、視野が広まり、複眼的な思考ができるようになる。考えに柔軟性がでて、相対的な思考法が訓練され、自分とは違う考えを持つ人に対する許容度が高まるという▼これはそのまま日本語教育のメリットだ。七〇年代まで、バイリンガルはポ語教育の邪魔になるという考え方が多く、学校の先生から「家庭内でも子供にはポ語を使うように」と言われた父兄も多い▼でも、カナダの日本人戦後移民の例では、下手な英語で無理してしゃべっても、子供が大きくなるにつれ、つたない英語の親をバカにするようになり、家庭崩壊にまで至った例まであったとか▼PealとLambertという学者は論文で、カナダのバイリンガルの子供(十歳)が、同程度の一言語使用の子供より言葉のIQスコアが良いことを証明したという▼バイリンガル児は一見、言語能力が低く見えることがある。二言語の単語数を総合すると一言語話者よりも多いが、学校では一言語でしか評価しないから「足りない」ように見られる。二言語を学習することは、一日の数時間を第二言語に使っている訳で、その分、一語話者より母語に接する量が減るのは致し方ない。能力が「足りない」訳ではないという▼戦前などは気の利かない二世のことを「ブラジル・ボケ」と言った時代もあったが言語学的には正当な理由があったようだ。彼らの能力は二言語まるごとで評価されるべきであって、一言語だけで測ってはいけない。きっと日本のデカセギ子弟にも当てはまるに違いない。(深)