ニッケイ新聞 2007年9月20日付け
日本の柔道関係者には怒られるかもしれないが、外国に旅立った〃子供〃の成長を温かく見守る視線があってもいい。リオの世界選手権では「国際ルール」と、日本が考える「本当の柔道」のズレが目立ち、それを単純に擁護する日本マスコミの論調が気になった▼国際柔道連盟に加盟するのは約二百カ国におよび、今回参加しただけで約百四十カ国だ。柔道が世界に普及した以上、変化するのは致し方ない。日本国内で伝統が重視されるのは当然だが、同じレベルを外国にも強要するのは難しい▼ロシア格闘技が入ろうがブラジルのグレーシー柔術の影響を受けようが、それでも柔道だ。リオでは揚げた寿司が流行ったり、サンパウロ市でもマヨネーズ入り手巻きが日常的に見られるが、目くじらを立てて「本当の日本食じゃない」と抗議しても大人げない▼いったんその国から出た文化は、外国の文脈の中で解釈され直し、より世界で普及しやすい形態に変化していく。愛好されるからこそ変化するのであり、変化を面白がる視線があってもいい▼今回、ブラジル勢が三つの金メダルを獲得したことは日本の勝利でもある。日本の技術とドイツ式練習法と、ブラジル人の強靱な肉体の、どれが欠けてもこの大躍進はなかった▼スポーツを通して世界中に、日本への親近感が醸成されることは国家的な財産だ。目先のメダルの数より、海外から見ればその方がよほど重要だろう▼もちろん、日本の主張は尊重されるべきだ。しかし、日本色が弱まると単純に嘆くのでなく、むしろ世界の「JUDO」に脱皮したとみる冷静な視線があってもいい。(深)