ニッケイ新聞 2007年9月21日付け
記者席正面の応援席は赤一色、まるでここは日本―。日本女子柔道の谷亮子選手が出場し、V7を達成したリオ世界柔道最終日、試合会場はこんな雰囲気だった。
実はこの日、谷選手が所属するトヨタがオリジナルの応援グッズを日系、非日系を問わず三百人に無料配布した。その一つが真っ赤な半被。大きめのサイズのこの半被の背には、「谷亮子」と達筆で書かれており、かなり目立った。
この半被に加えて、拍手代わりに音を出すビニール製の細長い棒も配られたが、こちらもすぐに〃売り切れ〃。前日までこんなグッズは配られていなかったから、この日の谷選手にかけるトヨタや日本応援団の力の入れようが伝わってきた。
この赤い応援団にはブラジル人も多く混じっていたが、遠めから見ると、真っ赤な半被に包まれているせいかその違いもわからない。ブラジル人をも日本の応援集団に仲間入りさせてしまったようだ。この点は「半被は必ずもらってくれる」ブラジル人の心理もしっかりおさえている。
当の谷選手は予選から「決勝であたってもおかしくない選手ばかり(本人談)」と対戦。延長戦を繰り返しながらも、二年間のブランクを感じさせない強靭な精神力と集中力で優勝した。
谷選手をはじめ日本選手の試合の際には、この赤い集団の統一感ある応援と一般のブラジル人観客の応援が合わさり、会場は大盛り上がり。まるで日本での試合のようだ。これは選手にとって大きな後押しになったに違いない。
ブラジルの放送局「グローボ」は日本の応援についても何度か報じた。それによると、ブラジル人の観客がブラジル人選手に次いで応援していたのは日本人選手だったことや、日本の応援団はマナーが良く感じがいいとの内容だった。なかには日本の応援を好奇にみるブラジル人もいたが、全体としては好印象をもってみられていたようだ。
谷選手は大会閉会後の十七日、リオ市内にあるリオ日系協会の会館で、在伯日本人・日系人との懇親昼食会に参加した。そこでは日系の婦人方がわれ先と、谷選手に記念写真やサインを申し込んだ。谷選手はなかなか食事にありつけないが、それでも何一つ嫌な顔をみせないでいた。
日本柔道団のスタッフも「彼女はけっしてファンや関係者にいやな顔をみせませんよ」といっていたが、なるほどその通り。中には気持ちが高揚したコロニアのある婦人が、谷選手の頬にベイジョ(キス)をしながら写真をとっていたが、谷選手は笑顔を崩さない。
また他の日系の婦人は「ヤワラちゃんはまるで女子高生みたいに小さくてかわいいの。あんなすごい試合をするようには思えないくらい」と興奮さめやらないでいた。
谷選手に昼食会の帰り際に感想を尋ねてみると、「リオの空港についたときから(日系の人たちに)温かいお迎えをしてもらいました。今回改めてブラジルの良さや日系の人たちの温かさがわかりました」と満面の笑顔だった。
世界の頂点に立ち続ける女性アスリートは、畳の外でも人間ができていると実感した。だからこそ世界の頂点に立ち続けられるのか、とも思う。(泰)