ニッケイ新聞 2007年9月27日付け
【エスタード・デ・サンパウロ紙二十六日】ルーラ大統領は二十五日、第六十二回国連総会の冒頭演説でバイオ燃料の生産が食糧減産を招くことはないと強調した。エタノール生産は環境保全に貢献し、低開発国の産業発展にも役立つので、開発中のクリーン・エネルギーよりも効果があると、一九二カ国の代表を前に喝破した。ブラジルは二〇〇八年、植物性燃料の国際会議開催を計画し、アマゾン熱帯雨林の国際管理は国家主権が許さない、森林伐採も制限すると確約した。
ルーラ大統領の国連冒頭演説は、一九四七年のアラーニャ伯外相以来六〇年振り。続いて国連本家の米大統領へ、バトンタッチされた。しかし、各国代表の着席が遅れるのは通例で、冒頭演説は露払いのように思われている。
ブラジルは初回環境会議の開催地であり、環境対策の成果を見直す時期にあると大統領は訴えた。二〇一二年は、その成果を問う第二回環境会議の期限である。二〇年の対策努力を発表する「リオ+二〇」開催のためにブラジルを候補地として提案した。
食糧減産は、キューバのカストロ議長とベネズエラのチャベス大統領の懸念である。両首脳は食糧生産の農地にサトウキビを栽培し、食糧価格の高騰で犠牲となるのは低開発国の貧しい国民だというのだ。大統領は、サトウキビ栽培が農耕地のわずか一%に過ぎないと反ばくした。
ルーラ大統領によれば、問題は食糧の不足ではなく所得の不足であり、低開発国の問題ではなく人類の飢餓問題だという。所得の不足は、無力な婦女子一〇億人から生活の糧を奪う経済システムだと糾弾した。
クリーン・エネルギーの開発技術力を持たない一〇〇カ国以上のラテン・アメリカやアジア、アフリカの低開発国が、サトウキビ栽培で恩恵を受けている。エタノールは自国の燃料自給と雇用創出、小農の所得向上、環境保全、社会福祉に役立っている。ブラジルは、その実例を提示した模範国といえる。
世界各国は、発展方式を変える必要がある。利己的で無責任な現行方式を続けるなら、やがて人類は破滅する。現実的で高度なロジックを考えるべきである。後進国を省みない弱肉強食のシステムは、取り返しのつかない結果を招くと大統領は警告した。
地球を住みよい所となすために、国連常任理事国の拡大を提案したフランスのサルコジ大統領案支持を大統領は表明した。常任理事国は一部先進国ばかりでなく、途上国も加えるべきである。ブラジルは途上国代表として、戦ってきた長い歴史がある。
ルーラ大統領の国連演説には、少しハッタリがある。森林伐採は一時勢いが衰えたが、なおも続いている。アマゾン熱帯雨林の一部マット・グロッソ州だけで、森林伐採が往年の二倍も進行した。森林伐採制限を交換に数々の恩典を与えたが、効果は少ない。
投資勧誘がサトウキビ栽培に向かうことで、伐採制限はどこ吹く風である。伐採のあとは山焼きが行われ、炭酸ガスの排出もいいとこだ。山焼きはたまたまあるのではなく、恒常的に行われる。森林伐採を抑えるには、コモディテイの暴落しかないと関係者はいう。