ニッケイ新聞 2007年10月9日付け
中国の俗語に「阿堵物(あとぶつ)」があり、日本でもよく使った。「銭」と呼ぶのを嫌った晋の王衍が使い始めたとされるが、世の多くの人々が求めて止まないのも「オカネ」である。儲かる―と耳にすれば誰しもが飛びつき、資本が要ると話されれば、なけなしの蓄えをも差し出して大成功の夢を貪る。昔も今も―この俗事は生きており、「マルチ商法」もまったく廃れない▼東京の「エル・アンド・ジ―」(L&G)に捜査の手が入った。警視庁の調べだと「一口百万円の協力金を預けると三ヶ月ごとに9万円の配当を払う」と宣伝し、これまでに1000億円をも集めた。日本で1年に金利を36%も払う銀行はひとつもない。しかも、このマルチ商人は「元本は保証する」と説明するのだから、みんなが飛びつき、あっという間に1000億円である。恐ろしいほどの「儲け?」である▼この「儲かる話」は超一流のホテルで豪華料理でもてなし著名な歌手のショーもある。まあ―常識を超える高金利だとは解ってはいても、元利も保証となれば、引っ掛かるお客がいっぱいとなるのではないか。この会社の波和二会長(74)は、生粋の「マルチ商人」で70年代初めに「マルチ商法」を繰り広げて逮捕され、4年半も刑務所にいた。それにも懲りずに騙しの商売である▼当然、商売は行き詰まり売り物の100万円に9万円も払えなくなり高齢者やご婦人らの被害は広がる。怖いのはこれ以外にも海外投資などを呼びかけての「マルチ」がはびこり500億円や600億円の被害があることだ。「超々高金利」などありえないのに―である。 (遯)