ニッケイ新聞 2007年10月10日付け
一年ほど前、自分史を書いているという戦前移民の男性と知り合った。その本がこのほど完成したと聞き、訪ねた。
一年越しの完成。男性が話していたように、日本語で書かれた幼少期から渡伯、現在までのエピソードが、それぞれポルトガル語に翻訳され、本の前後に並んでいる。
米寿の記念にまとめたものだった。翻訳には子供たちも協力。祝いを兼ねた「出版パーティー」には、子や孫など約四十人が集まったそうだ。「面白がっていましたよ」と、男性は和やかな表情を浮かべていた。印刷した百冊は家族、友人に配り、ほとんど残っていないとか。
一移民の歩んだ道が、ルーツとして子孫に伝わっていく。もちろん、文字に限らず、言葉で受け継がれてもいい。五世、六世の時代になったとき、一世の出身県を答えられる人はどれだけいるだろうか。 (ま)