ニッケイ新聞 2007年10月17日付け
【エスタード・デ・サンパウロ紙十日】ルーラ大統領は八日、ヴェネズエラのチャヴェス大統領があつらえた「スール銀行丸」に乗船し冒険の旅に出ることになった。この鳴り物入り計画で最初の経済的獲物にありつくのは、ブラジルでないことだけは確かだ。政治的な獲物でも同じだ。
乗船者の顔ぶれを見てルーラ大統領は、システムというあやでカネをふんだくられるだけだ。これまでのスール銀行発足の経緯は、八百長であることが明白。イカサマ博打に招かれたカモとしかいえない。大統領はそれが分かっていたなら、余程同計画が気にいったのだ。
マンテガ財務相の話では、最初加盟各国が資本金を出して同銀行の重役となる。出資額が異なるなら、ブラジルに何らかの特権が与えられるのか。議事録によれば、経営評議委員会が構成され、各国が出資比率に関わらず一票を与えられるという。
この評議委員会なるもの、実体が見えている。ボリビアとエクアドルは、チャヴェスの幹分である。アルゼンチンは財政危機でチャヴェスに助けられ、地獄の仏である。これでチャヴェスは、七票のうち四票を握っている。残るウルグアイとパラグアイが、どっちへ転ぶかは分かる。
スール銀行は、何も得るものがない金持ちの道楽ではない。南米の近代化と設備投資に融資をする機関であるなら、ブラジルの足にはめられる何の役にもたたない鉄の玉に過ぎない。
同じ目的で米州開発銀行(IBD)と世界銀行(BIRD)が、豊かな資金とはるかに安い低利を提供している。国際金融市場でその機能性が評価され、すぐれた技術を持っている。
スール銀行は南米の発展を目的としたもので、既存の組織に対抗するものではないといいながら、経済的または政治的に条件を強要しないし、スール銀行は国民資質に責任を転嫁することはないという。
これは、ヴェネズエラのカベーザ財務相の弁である。融資には政治的イデオロギーの違いを強調し、従来の資本主義システムssに対抗する姿勢を打ち出している。定款原文には、国際通貨基金(IMF)を代替するものだとしてある。
ブラジル政府は、定款からIMF代替を削除させた。従ってスール銀行は、単なる地方銀行となり、IMFのような役割を強制されない。しかし、融資対象の条件は、今後も何かと問題を引き起こす。
アルゼンチン政府は、いの一番にスール銀行発足の趣旨に賛同した。アルゼンチンは、ヴェネズエラのカネに近隣諸国のカネを加え自国の発展に利用できると踏んでいる。同銀行が優先する投資対象は、ベネズエラ・アルゼンチンの共同開発であって、ブラジルはダシにされるだけ。