ニッケイ新聞 2007年10月24日付け
十月五日付け本コラムで、世界の殺人事件の1%がサンパウロ市で起きているという九九年(一〇万人あたり五二人)の統計を紹介し、〇六年現在では遙かに低く(同一八人)なったと紹介したが、二十一日付けボン・ジア紙(サンパウロ州ソロカバ市)には、さらに驚くべき数字が出ていた▼人口一〇万人あたりの自殺者数の国別比較だ。日本は同二五人にもなるという。つまり一〇万人あたりで考えれば、サンパウロ市での〇六年の殺人事件より多い。〇一年の南米諸国平均の殺人事件が同二十五人だから、ちょうど同数だ▼日本で自殺する人が年間三万人おり、ブラジルで年間に拳銃で殺される人数とほぼ同じであり、「日本の自殺希望者がブラジルで身代わりに来てくれたら」というピアーダを以前書いた。それほど多いというつもりだったが、自殺率で考えれば日本が一番ではなく、アルバニアやロシアでは同四〇人にもなるらしい▼同記事によれば、ブラジルは世界でも最も低い国の一つ。ソロカバ市では年間同四人で、日本のわずか六分の一だ。それでも同市では、〇五年の自殺者二五人から〇六年に二七人に増えたとして、対策を訴えるシンポが開催されたという記事だった。ブラジルは自殺自体が少ないだけに、残された家族のショックがかえって強いのだという▼治安は良いが自殺が多い日本。治安は悪いが自殺が少ないブラジル。「治安のよさ」は日本を代表する好イメージの一つだが、数字だけ見ると、日本人の内面世界は「サンパウロ市なみに危険」ということか。他人から拳銃で殺されるのと、社会から精神的に追い詰められるのと、どちらがむごいのか。(深)