ニッケイ新聞 2007年11月07日付け
◇魚(4)
次にアマゾン特有の魚について述べる。
〔ピラルクー〕
アマゾン産の魚の中で第一に指を折るのがこのピラルクーである。
日本の鯉のぼりの黒いのに似ている。体長二メートル、胴の直径六十センチ、五十乃至(ないし)八十キロあり、稀に二百キロを越す大物もある。
銛を使って獲る。魚でありながら時々息をしに水面に出てくる。それで、慣れた漁師は、そのモグリ具合、方向から大体どの辺に浮いてくるか見当をつけて待っている。浮いてくるとすかさず銛を打ち込む。やはり浮子が縛ってあって、浮子を追って疲れたところを捕らえる。
美味である。なかんずく一塩したものは、フレスカールといって賞味される。尾に近い部分と腹の部分が最高である。腸は輪切りにして煮ると、烏賊の煮たものに似て、美味である。乾製品は、鱈(たら)のかわりにクリスマスや祭日のご馳走に用いられるので、商品価値が高い。舌は骨質でおろしがねに代用して、グァラナなどを擂(す)るのに用いる。鱗は大きく皺(しわ)があるので、サンドペーパーの代わりにマニキュア用に使われる。
〔ピラニア〕
余りにも世界に知れ渡った恐るべき魚であるが、その性質を知っていれば、余り恐れるほどのことはない。事実、私たちはピラニアのうようよいる川で水浴びしたり、泳いだりしているが、一度も食いつかれたことはない。
ただ、血を見、臭いを嗅ぐと、途端に凶暴になる。だから、怪我をしていたら絶対に水に入らない。
それから、牛や鶏の内臓を洗ったりなどしたら、しばらくは水に入らぬことである。興奮しているので、食いつかれることは間違いない。
おかしかったのは、私の弟が足の指にマーキュロ・クロームを塗っていたら、その趾に食いつかれたことがあった。赤い色に興奮するのは、牛と久米の仙人だけかと思ったら、ピラニアもそうだったとは思わぬ発見である。
大体二種あって、ピラニア・カジューは胸びれや腹びれが赤く、体型は丸みがかっている。体長十~十五センチ、鋸歯状の鋭い歯を持っていて、最も獰猛である。ピラニア・プレタは、黒味がかっていて、体型はやや菱形、大きいのは五十センチ以上になる。肉や魚を餌にすると、よく釣れる。揚げても美味いし、スープにしても上等である。投げ網など打とうものなら、たちまち無残に食い破られてあとの修繕が大変である。
〔カンジルー〕
体長五~八センチ、泥鰌に似た魚である。小さい鋭い歯で皮膚面に食いついて、体をクルクル回して、スポンと皮と肉とを剥ぎ取る。直径一センチ位の穴が開いて血が出る。すると、たちまちピラニアが寄ってきて酷いことになる。むしろ、ピラニアよりこの方が危険である。
その上、フリチンなどで水浴びすると、肛門から体内に入り込んで、気絶するほどの騒ぎをやらかす。これが、女の人の大事な所に入り込んで、生きるか死ぬかの騒ぎを起こしたこともある。
その人がシヌ、シヌと口走ったかどうかは定かではないが、胸びれの下にとげがあって、入るときはスルリと入るが、引っ張りまわそうとすると、このとげが逆にひっかかって、簡単に出せないようになっている。これを取るには、手術などは愚の骨頂で、体温より少し高い温度の湯をつくり、それに浸す。
するとカンジルーは、温度の高い方を好むので、温度の高い方の湯に出て来るとのことである。一理ありそうに思われる。
このため、スケベイ・ドジョーの名がある。つづく
(坂口成夫、アレンケール在住)
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