ニッケイ新聞 2007年11月14日付け
「命がけの仕事でした」。ブラジル日本文化福祉協会のコロニア文芸賞選考委員会(遠藤勇委員長)主催の授賞式が九日夜、同協会で開催され、十三年がかりで八百頁の大作『百年の水流』を執筆した受賞者、外山脩(とやま・おさむ、65)さんはほっとした表情でそう語った。
当日は、受賞を祝福するために遙か南大河州からも友人や関係者ら百人以上が駆けつけるなど、広い人脈に裏付けられた作品であることを伺わせた。
西林万寿夫在聖総領事は「島内大使から必読書だから、ぜったい読めと励まされた」との話を紹介。すでに半分を読破した感想として、「非常に多角的な視点から書かれている」と誉めた。
選考委員の中田みちよさんは選考過程を説明、散文、韻文、雑誌、移住誌など二十三作品のなかからを満場一致で選んだと報告。「平易な文章で、公正な視点から書かれている」と選考理由をあげた。
外山さんは「協力してもらった人はざっと百人にものぼる。個人の力ではできなかった」と振り返り、「コロニアはコチア、南伯、南銀を失ったが、歴史という味わい深い財産が残っている。深く掘り下げると得るものは多い」と今までの執筆活動を総括した。
臣道連盟を例に挙げ、「これまでの史料は偏っているものが多い。例えば特攻隊は存在しなかった。二千数百人が冤罪で逮捕され、亡くなった人も大勢いる。そういう霊を慰める必要がある」と熱く語りかけ、さらなる史料掘り起こし作業を呼びかけた。
会場には、取材に協力した襲撃事件の一員として投獄された経験をもつ、日高徳一さんや山下博美さんらも姿をあらわした。
友人を代表して永山八郎さんは「執筆にかかった十三年間のうち、最後の四年間はカンポス・ド・ジョルドンにこもって書いていた。このジャーナリストとしての使命感は素晴らしい」と賞賛。来年の百周年に向けてポ語出版することが決まり、林慎太郎さんが六月から翻訳作業を始めていると報告した。
わずか一晩で読み切ったというモジ在住の生田博さんも挨拶にたち、「移民に愛情を持って書かれた本だ。特に勝ち負け問題に対して正確な記述をしている」と評価し、「ポ語版をぜひルーラ大統領に献上してほしい」とした。
同書は日本移民史料館や各日系書店で販売されている。