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アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(13)=生殖の営み見せつけるイルカ=インジオは何故か怖がる

ニッケイ新聞 2007年11月22日付け

 ◇魚の話(6)
 〔タモアター〕
 アカリーの子分みたいな魚で、体長十五センチくらい、鎧冑に身を固めている。このスープは殊のほか味がよろしい。
 この魚は腸呼吸するので、乾季になって川の水が干上がると、次の水たまりへ陸上を移動する。これも乾季に多量に捕獲される。さらに乾季を過ぎて雨季に入り、川の水が増えてきて、それまでの川岸の草原が水浸しになる。浅い所を歩くと、点々とアブクの固まりみたいなものがある。取ってみると、タモアターの卵がひと固まりになっている。これを拾い集めて天ぷらにしたものも美味である。
 〔ボートー〕(川いるか)
 これは、魚ではない。哺乳類であるが、体型から一応魚の部類にいれる。
 海豚(いるか)のことである。大別して二種類あって、大きいほうは白ボートーあるいは赤ボートーと呼ばれる。体長四~五メートル、淡桃色である。温和で人に危害を与えない。
 小さいほうはツクシーといって、体長二メートルくらいで、黒色、ともに温和である。余り人を恐れない。
 一度、川の水がほとんど停止している所をカノアで通ったことがある。このツクシーがたくさん浮いたり潜ったりして遊んでいた。そのうち、カノアのすぐ横に一頭が浮いてきて、上下にへんな動きをしている。よく見ると、下にもう一頭いる。何のことはない。番(つが)っていたのである。わざわざ人に見せつけに来るとは、何と変態な奴もいるもんだと思っていると、ふと古事記の中で、イザナギの命とイザナミの命に、イルカが実演して見せてくれたというところを思い出して「ははぁ、これだな」と合点がいった。それにしても、おかしな奴である。
 インジオたちの間には迷信があって、このボートーが若い男に化けて若い娘を孕ませるというわけで、女の子は殊のほか怖がる。それで流行の自由恋愛とかで、父親の判らない子供ができると、ボートーのせいにされてしまい、ボートーの子といわれる。ボートーこそいい面の皮である。
 このボートーの左の目を取って、レンズよろしく好きな女の子を覗くと、その女の子がその男に惚れるといわれていて、時々死んだボートーが岸に打ち上げられているのを見かけるが、例外なく、左の目玉が抜かれている。
 ベレン市の市場に行くと、その一角に草根木皮や猿の頭や、いろいろな動物の脂、薬やら、オマジナイ用のものが並んでいる。また、ぶら下がっている。その中に、ヘンなものがあるので、何かときくと、雌のボートーの局部だという。一体何をするのに使うかときくと、婦人病の妙薬だという。効き目のほうは定かではないが、ヘンなものがやたらとあって面白い。
 〔トゥクナレー〕
 日本のスズキに似ている。口が大きくて肉食性で、動くものに飛びついてくる。それでシリリカや刺し網で捕らえる。枝のある小骨がない。食味がよいので、刺身に好適である。傷や出来物のある人が食べても悪化しない。その上、美しいので珍重される。
 体長四十センチくらいになるが、それを越すのも稀にはある。変ったことではないが、この魚はピラニアの天敵で、ピラニアを食べるので、ピラニアの異常繁殖を避けるために、サンパウロ州やパラナ州のほうに送られたこともある。
 ピラニアの天敵は、このトゥクナレーと鰐である。欠点は腐敗し易く、死んだのをすぐ料理しないで日向に置くと、一~二時間そこそこで食い物にならなくなる。つづく (坂口成夫、アレンケール在住)



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