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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2007年11月23日付け

 戦後初期移民の同船者会が盛んである。ほとんど「五十周年記念」だ。世話人の多くは、二十代に入ってまもなく渡航した単身移民たち。四十歳代で家長だった同船者たちのほとんどは他界してしまった。さきごろ、招集をかけた女性は、例外的というべきか、当時七歳の子供移民であったが、今や中高年域の入り口にいる▼月並みだが、集う人たちの心境は「光陰矢の如し」であろう。それにしても、同船者会をやろうと企画する人たち、集う人たちの気持は何なのだろう。郷愁旅行といっていいだろうか。旅行をあえてつけたのは、参加者たちは、なお人生の旅の途中にあるからだ▼さきごろ、ある北伯の失敗した入植地に入った同期の人たちの五十周年親睦会が、同地で開催された。サンパウロからわざわざ訪ねたのである。その土地に何もないことは、行く前から察しがついていた。当時乗った小船が着いた桟橋だけが、昔のまま残っていたという。現場に立った人たちは、立っただけで満足したようだ。ほかには何も望まない。郷愁が満たされ、気が済んだのである▼同船者会の参加者たちは、一応成功者だとよくいわれる。在伯五十年余を経て、人に語るべきものを持っている。持っていない人、語りたくない人は集会を避ける。強制される集まりでないから、参加しなくてもいっこう差し支えはない。できれば「同じ船のめし」を食った同士なのだから、自慢話だけは遠慮したい。互いに刻んだ皺を確認し合えればいいとしよう。(神)