ホーム | 日系社会ニュース | 湖西市交通事故帰伯逃亡事件=容疑者らに謝罪の意思なし=フジモト容疑者はサンパウロ市自宅?=本紙記者が再び父親に詰問=「もう全て終わったことだ」

湖西市交通事故帰伯逃亡事件=容疑者らに謝罪の意思なし=フジモト容疑者はサンパウロ市自宅?=本紙記者が再び父親に詰問=「もう全て終わったことだ」

ニッケイ新聞 2007年12月7日付け

 「何度来ても話すことはない。もう全て終わったことだ」――。デカセギ帰伯逃亡事件で国際指名手配されている日系ブラジル人女性、フジモト・パトリシア容疑者の本籍地であるサンパウロ市南部の自宅を訪れると、容疑者の父親は手を横に振ってこう何度も口にした。父親のロベルト氏がA4用紙四枚にわたり、日本の警察の調べと真っ向から対立する主張をニッケイ新聞に送りつけてから約半年。容疑者家族の心境に変化はあったのだろうか。そして、パトリシア容疑者はどこにいるのか――。事件発生から二年あまり経過した先月、容疑者宅を訪れた。(池田泰久記者)
 十一月二十九日夕方、サンパウロ市南西部にあるパトリシア容疑者の自宅へ向かった。高級住宅街モルンビー区に近い地区にある一軒屋だ。
 呼び鈴がなく、しばらく自宅前にいると、車庫の扉を下げている二十代後半とみられる日系女性らしき姿が見えた。急いで車庫の扉を何回か叩いてみた。すると隣の玄関から、同じく二十代くらいで体格のいい日系男性があらわれた。
 「お前は誰だ。何が目的だ」。筋肉質の太い腕をがっしりと組み直立する男性。のっけから低く威圧的な声で話しかけてきた。
 取材目的をゆっくりと話し、パトリシア容疑者と男性の関係性を尋ねると「ただの知り合いだ」と答えた。続けてロベルト氏はいるかと聞くと「彼はもうここにいない」と威圧的な様子でいう。さらに問いただすと「ちょっと待て」と言い、自宅の奥に戻った。
 玄関前で数分ほど待っていると〃いないはず〃のロベルト氏が現れた。中肉中背で、胸に小さく「―JAPAN」と何かの企業名をデザインしたロゴ入りTシャツを着ている。
 こちらから質問を切り出す前に、ロベルト氏はポ語で「事件は全て終わったことだ」と大ぶりなジェスチャーで何度も口にした。パトリシア容疑者の所在を尋ねると「何を聞いても無駄だ。何も新しいことはない」とくりかえす。
 日本の遺族への思いを尋ねても「何もない」とぶっきらぼうに答えた。
 いったんその場を離れ、容疑者宅前の道角に立っていた黒服の警備員について、近隣住人に尋ねると「二カ月ほど前から」という。この警備員は半年前に別の本紙記者が訪れた際にはいなかった。
 この警備員に確認しようと容疑者宅前に戻った。間もなく車庫が開き、車が出てきた。最初の日系女性が扉を上げ下げしていた。
 この瞬間、車からロベルト氏と玄関で冒頭に話した日系男性が飛び降り、鬼のような形相で記者に歩み寄ってきた。「おいお前。何しにもどってきた」。日系男性とホベルト氏が大声を張り上げた。
 「お前を警察に連れて行ってやる」とロベルト氏は続ける。その直後、記者が手にしていた取材メモを強引に奪い、目の前でクシャクシャに丸めて取り上げた。「おまえはいったい何をここに書いていたんだ!」。
 日系男性も「警察に行きたくないならさっさと立ち去れ」とすぐにでも殴りかかってきそうな形相で怒鳴った。記者の後ろから、「VA!VA!(行け)」と何度も吐き捨てるように日系男性は言い続けた。
  ◇事件概要◇
 〇五年十月十七日、静岡県湖西市の交差点で事故が起きた。派遣社員フジモト・パトリシア容疑者が運転する軽乗用車と山岡夫妻の乗用車が衝突。これにより後部座席に乗っていた山岡夫妻の長女、理子ちゃん(当時2歳)が死亡した。
 同容疑者は現場で警察の事情聴取に応じた数日後、ロベルト氏ら家族と共に突然帰伯。その後、国際指名手配された。


■記者の眼■
山岡夫妻の思い未だ届かず=今件が国外犯処罰問題の起点

 山岡夫妻らが中心になって外国人引き渡し条約締結および司法共助協定に関する署名活動を始め、わずか半年で七十万人もの大きなうねりを呼び起こした。国外犯処罰(代理処罰)問題の起点ともいえる事件だ。
 今回の取材を通じて感じたのは、遺族が求める謝罪と、容疑者の家族であるロベルト氏らの行動の間には、大きな溝がある点だ。山岡夫妻への〃歩みより〃は到底感じられない。
 容疑者宅前に立っていた警備員の理由は定かではないが、同家族が雇ったのであれば、それは以前よりも過敏に神経を尖らせている証拠かもしれない。
 車庫の扉を開けた二十代の日系女性だが、パトリシア容疑者本人かは定かではない。しかし二人の激昂した様子をみると、〃見られてはまずいものを見られた〃といった印象を感じさせてならなかった。
 「自ら日本に戻って謝罪して欲しい」という遺族の強い意向で、国外犯処罰申請が行われていないと聞く。そのため、すでに裁判に入った二件の国外犯容疑者と違い、このまま普通に生活を続けることが可能だ。外国人である彼らに「日本に戻る」という日本人的良心を期待し続けることが、有効なのか。解決の曙光はまだ見えてこない。(池)