ニッケイ新聞 2007年12月8日付け
以前、知人の息子が検査結果を持って医者に行ったら、担当医は検査結果の説明が出来ず、検査結果の読める医者は三カ月したら来ると言われたと聞き、耳を疑った。しかし、七日のエスタード、フォーリャ両紙には、お寒い医療の実態を裏付ける報道があった。
それは、サンパウロ地方医学審議会(CRM―SP)実施の医学部最終学年生対象の試験報告で、五六%が一次試験で六割を取れなかったという。一昨年の三一%、昨年の三八%と比べても明らかに悪い結果だが、強制ではなく、希望者が受けるこの試験。担当者は、「学部の優等生だけが受験している可能性があり、現状はさらに悪い可能性がある」とさえ言う。
特に点が低かったのは、婦人科、内科、小児科、外科の各分野で、喘息については正解率一三%、子供の肺炎については三二%の正解率という。座ってやるテストですらこの状態では、救急外来で患者に接した時、瞬時に適切な診断を下し、正しい治療を行うことができるのだろうか。
実は十月二十日付サンパウロ新聞が、医師でもあるテンポロン厚生相がデング熱で死者が出た責任の一部は医師の能力不足とし、「医師は速やかにデング熱病であることをキャッチできる能力を備え、適切な治療を施す必要があるが、その訓練が出来ていない」と批判したことを報じている。現場の医師がこれでは、経験も積んでいない医学生ではなおのことかもしれないが、十月十七日のエスタード紙によれば、一九九六年から二〇〇五年にかけて医学部を卒業した医師の六一%(サンパウロ州、全伯では六四%)はインターン(実地研修)経験がない。
一般企業では、大学を出ただけでは現場が要求するレベルの知識や研究能力がないといわれるが、医学ではなおさら。CRM―SP会長も「六年の学部での学びだけで質と安全を伴った医療を施すことのできる医師などいない」という(十月十七日エスタード紙)。まして、基礎知識に欠けた学生が半数以上であることや、今回の試験の結果に関係なく現場に出れること、大半の新卒医師が救急外来で働くことを考えたら、ここ七年でサンパウロ州内の医者に対する告訴件数が七五%増え、二万件近い(本紙既報)ことは、ごく自然の成り行きといえよう。
医学教育の質の低下が言われてきたが、急増した医学部学生を指導する教官や研修の場の不足、国家試験のような資格検査もなく送り出される医師。教育と医療行政の欠陥でもあるが、知識もなく、経験もないまま職につく医師ばかり増えたのでは、命の危険さえ伴うといえよう。
なお、受験した二三校中、サンパウロ総合大医学部は九〇・一%、サンパウロ連邦大医学部は八五・七%の学生がCRMの試験を通過した。