ニッケイ新聞 2007年12月18日付け
陛下の写真がゴミ収集所に――!? 戦前戦後を通じ、コロニアの精神的支柱となってきた皇室。その写真がサンパウロ市ボスケ・ダ・サウーデ区の廃品回収所にあると聞き十五日、早速取材に向かった。保管されていたのは、現在の天皇陛下が皇太子時代のご成婚写真。一昔前のコロニアなら、ゴミとして出す発想すら考えられないことだ。「正直ショック。時代の流れなのかねえ」とため息をつくのは、山内淳元文協会長(76、二世)。「陛下の顔を知らないってことはあるだろうけど、常識があれば捨てるにしても方法があるだろうに…。やっぱり家庭教育だろうねえ」と話した。
「綺麗な写真だな、と思って取っておいたんだ」
段ボールや鉄クズなどが所狭しと積み上げられ、荷車を引いたカタドールたちが空き缶などを持ち込んでくる。
四年前から、廃品収集業を始めたというロミウド・サントス・ダ・シウバさん(45)は取材の意図を伝えると、事務所奥から、額に入った天皇皇后両陛下の写真を持ってきた。一九五九年(昭和三十四年)のご成婚時に産経新聞出版局が作成したものだ。
「エンペラドールの写真なんだって? こちらの女性は奥さんかい」と笑顔を見せるロミウドさんによれば、十一月末に運び込まれた廃品のなかにあり、収集場所は分からないという。
額の裏面を外すと、「五箇条の御誓文」「教育勅語」、明治天皇御製の和歌などの印刷物も入っている。
そのほかに埼玉県の畑和元知事(七二年から連続五期)が一九七四年(昭和四十九年)に来伯したさい、持ち主であったと思われる県人会員夫婦に送られた表彰状もあった。
埼玉県人会の根本信元会長に表彰状にあった名前を告げると、当時の理事だったこと、すでに故人であることが判明した。
一世移民夫婦が皇太子殿下のご成婚を喜び、遠く離れた古里の顕彰を誇りに、家に飾っていたものであることは想像に難くない。
陛下の三度の来伯、皇太子殿下が来年百周年で来伯されることを伝えると、ロミウドさんは、「大事に取っておくよ」と大きく頷いた。
百年が経ち、六世まで進んだコロニアの日本的精神希薄化を象徴するような今回の知らせに根本会長は、「知らせても家族は取りに行かないでしょう。県人会の資料として管理したい」と引き取る意思を話している。