◇獣の話(3)
反芻類(鹿科)
インジオたちの食糧として重要である。何種類かあるが、主なのは次の二種である。
〔ヴィアード・ブランコ〕
訳して白鹿。名前は白だが、淡褐色である。鼻と腹が白い。小型で犬より少し大きいくらい。森林中や草原で出会うことがある。肉は美味であるが、傷や腫れ物があれば、悪化する。
〔ヴィアード・ヴェルメーリォ〕
訳して赤い鹿。色は栗色で草原や疎林中に棲む。またの名をヴィアード・カポエイラ(再生林)ともいう。大型で子牛ほどある。
よく耕地に侵入して玉蜀黍や豆などを荒らす。その踏み跡を辿って、よく通る所に銃を仕掛けて仕留める。しかし、中にはこちらの裏をかいて、仕掛けてある所をぐるりと回って通ったり、前肢で仕掛けを引っ張って銃を発射させ、一家眷属を引き連れて悠々と通り過ぎる豪の者もいる。
こうなると、もう意地づくで、いろいろ工夫をこらして、人工のものは一切使わず、木の枝や蔓などをうまく組み合わせて仕掛けをつくるのだが、引っ掛かるのは若い鹿ばかりで、件の大物はなかなかかからぬ。そのうちに乾季が来て、水が少なくなったため、森の中の湧き水がある所に水を飲みに行って、近くの木の上に柵をつくって待っていた猟師に仕留められてしまった。
食肉類(猫科)
ライオンや虎ほどではないが、南米産の猛獣と呼ばれるものに、プマとジャグアールがある。ともにオンサと呼ばれるが、種類によってその下に名がつけられている。
〔プマ〕(オンサ・ヴェルメーリャ)
アメリカ・ライオンともいわれるが、ブラジルでは毛色にしたがって、オンサ・パルダ(灰色の豹)またはオンサ・ヴェルメーリャ(赤色の豹)という。またオンサ・ススアラーナともいう。ヴィアード・ヴェルメーリォのことをグァラニー語ではスアッスー・エーテーといい、これに毛色がよく似ていて、遠くからちょっと見ると、鹿と見誤りやすい。ラーナとは似ているという意で、鹿に似た豹となる。
北米から南米にまで棲息していて、体長一メートル三十センチ、体高六十センチから六十五センチ、尾の長さは六十センチくらい、体に比較して頭が小さい。豚、羊、牛、馬などを襲う。その肉はヴィアード・ヴェルメーリォに似て美味である。
〔ジャグアール〕(オンサ)
オンサ・ピンターダ(斑豹)。アマゾニアの猛獣中最大で、体長二メートルを越し、尾の長さ六十五センチに及ぶものもある。背と腹は黄褐色で、その地に眼状の黒斑が規則正しく並び、腹は白色で、やはり黒斑がある。
この一種とみられるものにオンサ・アカングッスーがある。斑紋が割れて不規則な形になっている。ともに美麗な毛皮の故に猟師に追及される。脚力強く、一日の行動半径は八十キロ及ぶといわれる。オンサ・プレタ(黒豹)、オンサ・チグレと呼ばれることもある。全身黒く、目玉だけが黄金色に光っている。全オンサを通じよく木を攀じ、泳ぎ、眼力、聴力強く、南米産獣類の王者たる名に恥じない。
よく家畜を襲うが、人間に対しては、人間が武装して用心している限り襲ってこないが、びっくりしたとき、例えば密林で不意に出会ったとき、仔連れのときと下手に傷つけたときは凶暴無類である。それで仔連れには近づかぬ。もし撃つときは一発で仕留められる自信がなければ撃たぬことである。
それにオンサが出るような所を丸腰でぼんやり歩くなどは以ての外である。動物はカンが鋭い。武装していないと判ったら好餌到来とばかり、待ち構えていて、隙を見て襲ってくる。どこかの国みたいに非武装中立などと甘っちょろいことを言っていると、たちまち食われてしまう。
幼いときに生け捕って狩猟に使う人もある。つづく (坂口成夫、アレンケール移住)