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新年祝賀会で「読書」のすすめ=特に推奨〃移民の本〃=昨年寄贈受けた椎の実学園=先輩が翻訳した『荒野の人』も

ニッケイ新聞 2008年1月9日付け

 椎の実学園(落合磨園長)の新年恒例祝賀会で、日常的な弛(たゆ)まぬ「読書」が生徒たちにすすめられた。昨年、同学園の学級文庫に外部から十二冊の新刊本が寄贈されたが、その中の五冊が、席上紹介された。うち一冊は、同学園の卒業生、故園尾ローザさんが翻訳した、移民の父・上塚周平伝『荒野の人』(能美尾透著)のポ語版であった。紹介は、「翻訳者・故園尾ローザ登喜子さん、学園の卒業生、一九六四年」と誇らしげ。学園の卒業生、先輩のなかに、こうした本を翻訳できるほどの日本語能力を持っている人がいた、ということについて、在校生たちはどのように感じただろうか。
 『荒野の人』の翻訳者、園尾さんは生前、能美尾さんの原著(新聞連載)を読んで、すぐにリオデジャネイロの自宅からオザスコの能美尾さん宅に電話し、「訳してみたい」と承諾を得ている。上塚周平の生涯に興味を持ち、ブラジル人たちに広く伝えたいと考えたのであろう。行動力、翻訳力が備わっていないと、なかなかこうはいかない。
 祝賀会で、寄贈があったと紹介された本は、ほかに四冊。『荒野の人』(能美尾透著、日本語版)、『ブラジル日系社会 百年の水流』(外山脩著)、『雑草の如く生きて』(後藤留吉著)、ブラジル日系人の生きた記録『イペーの花咲く地から』。
 学園側は、「ぜひ、みなさんも本を求め、読み、後世の人たちに残しておきましょう」と呼びかけた。五冊の寄贈本の紹介には、学園側の姿勢、意図が感じられる。すべて「わたしたちの先達たちは、このブラジルでいかに生きて来たのだろうか」を示すものばかりである。日本人移民百周年を迎えるにあたり、生徒たちにより一層認識を深めさせようとしたのである。
 園尾さんの翻訳本はともかく、日本語学校の生徒たちにとって、日本語の四冊を読解するのは容易ではない。平易な内容でないからだ。まして、先輩・園尾さんのような仕事ができる域まで達するのは至難である。それでも、あえて新年祝賀会で鼓舞した。
 祝賀会は、一日午前十時から、サンタ・クルス街の同学園で開催された。創立以来五十五年間続いている催しである。心を新たにし、迎えた新しい年を祝い、しっかり勉学につとめようと誓い合った。
 伯日両国国歌の斉唱に続いて、落合園長が祝辞、小野寺七郎教師と生徒代表の大勝秒美さん、永石幸江さんがあいさつを述べた。〇七年の激動した世界を振り返り、日系コロニアを含めた〇八年のきびしい展望が語られた。希望を失わないで、打克って、前進を――が確認された。
 式の終わりは、学園歌の斉唱。生徒たちの音頭で万歳を三唱、一人ひとりにお年玉が手渡され、校庭でパーティを行った。