ニッケイ新聞 2008年1月15日付け
囲碁最高位のタイトル戦、棋聖戦の第三十二期七番勝負第一局(読売新聞社主催)が十二、十三日、サンパウロ市のグラン・メリア・モファレジ・ホテルで行われ、十三日午後五時五分、白番の山下敬吾棋聖(29)が挑戦者の趙治勲十段(51)に百四十手で中押し勝ちした。対局は、移民百周年の日伯交流記念事業の一環として開催され、前夜祭には日本からの取材陣や囲碁関係者、日系団体の代表者が集い、終始、和やかな雰囲気だった。
囲碁のタイトル戦がサンパウロで開催されるのは、九一年の第十五期棋聖戦第一局(小林光一棋聖対加藤正夫挑戦者)以来、十七年ぶり。立会いは小林光一九段、解説羽根直樹九段という豪華版でおこなわれた。
今対局は、日本を代表する囲碁界の新旧対決。日本棋院南米本部の平松幸夫副理事長は、「四十四手目まですすんだ初日では両者互角だった。二日目の午前、趙十段が長考を重ねて秒読みになったころから山下棋聖の優勢が目立っていた」と解説した。
十一日夜、同ホテルで前夜祭があった。今回着聖後、日本棋院南米本部で指導碁をした山下棋聖は「ブラジルに囲碁を愛している人が多いことに驚き嬉しかった。碁を知らない人にも興味をもってもらえるような対局をしたい」とあいさつ。
対して挑戦者の趙十段は「(山下棋聖の)碁を何度も並べて研究してきたが、強いことがわかり、とても勝てそうにない」と述べた。そのうえで、「山下さんは北海道旭川の出身。暑いところが苦手なはず。七番勝負では負けるかもしれないけど、明日は勝ちますよ。(対局では)クーラーをつけないで、暖房をつけて頂きたい」とユーモアたっぷりにあいさつし、会場を沸かせた。
乾杯後には、サンバショーがおこなわれ、華美な衣装につつまれたダンサーが登場。山下棋聖と趙十段もタンバリンを手に踊るなど、明るく和やかな前夜祭となった。会場には日系団体の関係者をはじめ、西林万寿夫総領事、上原幸啓文協会長も駆けつけ、あいさつした。
山下棋聖は、第二十七期に棋聖を初獲得、翌年、羽根直樹九段に敗れてタイトルを失ったが、第三十期に羽根棋聖から奪還、第三十一期には小林覚九段の挑戦を退けた。今回は三連覇を目指していた。
平松幸夫、村井修両副理事長によれば、今対局が企画されたのは、昨年春、日本棋院の岡部弘理事長が山下棋聖と読売新聞東京本社を表敬した際、「来年はブラジルへの日本移民百周年に当り、南米の囲碁ファンは、それを記念する大きなタイトル戦の開催を熱望している」と要請したのが発端だった。
平松副理事長は「私たちの本部には若手をはじめ百五十人の会員がおり、三割が非日系のブラジル人。今回の対局をきっかけにさらに碁に興味を持つ人が増えてくれれば」と話していた。
第二局は今月三十、三十一の両日、島根県益田市の「島田家」で行われる。益田市は日本棋院南米本部の会館を八九年に建設した故・岩本薫日本棋院元理事長(第三・第四期本因坊)の出生地。岩本氏は一九二〇年代に二年間ほどブラジル移住した。