ニッケイ新聞 2008年1月16日付け
モンテヴィデオで開催された第三十四回メルコスル首脳会議は、やぶ蛇だとルーベンス・バルボーザ元駐米大使が批評した。会議の雰囲気はオブザーバーやマスコミの予想と反し、和やかな雰囲気であった。険悪なやり取りが予想されたウルグアイとアルゼンチンの大統領は抱擁とキッスで始まり、パルプ工場など丸っきり意に介していない様子だ。ヴェネズエラの加盟問題は、誰も切り出さなかった。
外交辞令が先行し懸案の事項は、何も話し合われなかった。ただ一つの成果といえば、メルコスルとイスラエルとの通商条約締結である。内容は冴えたものではないが、メルコスルが初めて地域外と行った市場開放として意義がある。
それ以外の案件は、先送りされた。メルコスル加盟国が域外の某国と独自の通商条約を結ぶため、メルコスル規定に融通性を持たせるなど重要な件も含めてだ。これは、加盟各国が経済発展に意欲を欠いているからだ。加盟各国にそれぞれの仕来りがあって、時代の趨勢から余りに遠い。
加盟国間に横たわる問題解決を敬遠しているか、係争が面倒臭いのだ。首脳会議は、うまい酒を飲んで美味い馳走を食ってピアーダでごまかされた。まさに盗人の寄り合いで「みんな脛に傷がある者同士だから、他人を咎めるな」と一向に足を洗う様子はない。
しかし、ブラジルが反米コーラスに参加しなかったのは正解であった。アルゼンチンのクリスチナ大統領候補にチャベス大統領が、カネを出したと米情報部がすっぱ抜いた。ボリビアのモラレス大統領を揺さぶっているのは米国、同大統領を失脚させてチャベスの片腕をもぎ取る考えだ。
腹に一物持つ首脳会議であったのに、平穏無事だったのは何故か。理由は三つある。第一は、ブラジルの態度にある。ペトロブラスが、ボリビア石油公団(YPFB)とベネズエラ石油公団(PDVSA)とジョイント・ベンチャー契約を結ぶ意向であること。第二は、瓢箪ナマズのような得体の知れないスール銀行にブラジルが前向きであるため、やがて政治的決着でことが決まるということ。
第三はルーラ大統領が、メルコ加盟国は何につけても決断が鈍いと叱責し「メルコスルには中と外に悪魔がいる」と皮肉った。中の悪魔は、何も決められない実務者。だから政治決着で決めたほうが、早いというのだ。YBFBとPDVSAとの合弁契約は、ペトロブラス技術陣が知らないうち政治的に決まった。
外の悪魔は、欧米とコソコソ直接取引きをする輩と指摘した。さらにメルコの優柔不断は日米ドイツの責任ではなく、メルコ自身が悪いと糾弾した。メルコ首脳はルーラ大統領がそういうなら、ベネズエラのメルコ加盟を優柔不断なブラジル議会が承認してから、承認すると意思表示した。