ニッケイ新聞 2008年1月16日付け
◇獣の話(6)
翼手類
〔大蝙蝠〕
翼を広げると最大七十センチ以上に及ぶ。アマゾン河もマウエスより上流のソリモンエス地方に棲むといわれる。不用心に眠っていれば血を吸われる。
〔吸血蝙蝠〕
体長七~八センチ、帯赤褐色、大きな門歯と犬歯を持ち、人畜を襲い吸血する。顔面に白い筋がある。狂水病を伝染させるので、牧畜家の敵である。お互い同士毛を舐めあう習性があるので、何匹かを捕らえてその背に毒を塗って放すと、それを舐めて死んでしまう。こうして駆除する。
多い所では窓に金網を張って侵入を防ぐ。この有無を知るには、牛、馬の頸部に傷があって血が流れていれば、居る証拠である。必ず頸部に喰いついて吸血するからである。
家でもある日、馬の頸筋から血が流れているのを見つけて、すぐに近くのバナナールを調べた。そうしたら、バナナの葉の裏側の雨の当らない所に十五、六匹いるのを見つけた。すぐエスピンガーダの20番口径の弾から鉛丸を抜いて装填し、銃口まで小粒のフェイジョンを詰めてズドンと一発。たった一発で全部吹っ飛ばしてしまった。その後、吸血蝙蝠の害はなくなった。
〔小蝙蝠〕
体長六センチくらい、黒褐色、屋根裏や空洞など薄暗い所を好んで棲む。昆虫や果実を食べる。
小生の家でも天井の上でガサガサ、キイキイ、ときどきドスンと垂木から飛び降りる奴があってうるさくて仕様がないので、征伐したことがある。
犬を三匹天井に上げ、男三人で片端から叩き落す。下をゴソゴソ這っている奴は犬が噛み殺す。煉瓦の穴や瓦の隙間にはいっている奴は針金の先を曲げて鈎にしたもので引っ掛けて引きずり出す。すかさず犬が噛み殺す。二日くらいかかっての戦果が千匹以上もあったのには、こちらも驚いた。
糞も石油缶に百杯ほど担ぎ出す。焼き払ってやれ、と火をつけたらモクモクと揚がる煙の臭いこと、隣近所の迷惑もいいとこで、閉口していたら、天の助けか、大豪雨の襲来で道路も何もかも奔流となって、さすがの糞の山もきれいに水が流し去ってくれた。
游水類(人魚類)
ペイシ・ボイとボートーがあるが、これは魚の部で述べたので省略する。
貧歯類
蟻喰い。大体三種類ある。
〔タマンドゥアー・バンデイラ〕
タマンドゥアー・アッスーともいう。バンデイラは旗の意で、その尾が大きく、ふさふさとしていて、旗のようになっているためにその名がある。
体長一メートル以上におよび、頭は狭く口吻が長く細長い舌を持っている。これで蟻をなめて吸い込む。濃灰色で幅の広い白斑が胸から背に通っている。肢は大きく鋭い大きな爪を持っていて、蟻の巣を掘り崩す。
皮は非常に強靭で下手に撃った鉄砲の弾など通らない。肉きり包丁で切っても、一回や二回ではビクともしない。何回も同じところを切ってやっと切れるくらいである。
そのために温和な動物でであるが、オンサも襲わない。皮が強靭で少々のことでは爪が立たない。その上、両肢でギュッと締め付けられたら、第一巻の終わりである。なにしろ、上肢は胸とともに筋骨隆々としていて、まるでボデイビルディングをした男そのものであって凄い力である。よく慣れない犬がこれにやられて絞め殺されることがある。つづく (坂口成夫、アレンケール在住)。
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(1)=獰猛なジャカレー・アッスー=抱いている卵を騙し取る猿
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