ニッケイ新聞 2008年1月22日付け
先週のサンパウロ市は、軍警大佐殺害ほか、北部で七人が大量殺人の被害に遭い、南部で誘拐犯三人を警官が射殺と、血なまぐさい事件が続いた。ブラジルの対処すべき問題の一つは治安であるが、これら一連の事件の後を追うように、二十日付けエスタード紙に、国内の殺人被害者は三〇年の累計として、今年末には百万人に達する見込みと報じられた。
この三〇年で百万人という数字は、二七年で百万人に達したアンゴラよりはましだが、アンゴラの場合は市民戦争下での数字。戦争らしい戦争もなく、観光資源にも恵まれ、国外からの旅行者も多い国としては、やはり、改善されなければならない数字といえる。
同紙では、五人の息子が全員殺害されたというレシフェ市のシウヴァさん(67)の例や、息子二人と甥を警官に殺されたリオ市のパウリノさん(44)などの例が挙げられていたが、これらの例は氷山の一角。
昨年十月二日の本紙では、国連が世界の殺人の一%がサンパウロ市に集中しているとの報告書を出したと報じたが、この報告書で取り上げられたサンパウロ市の殺人被害者数は一九九九年のもので、サンパウロ州ではその後減少。全伯でも、四万九五〇〇人が犠牲になり、一〇万人につき二八・五人が殺人の被害者となった二〇〇二年や、人口当たりではこれを下回ったが総数では五万人を超えた二〇〇三年が最悪で、それ以降、殺人の被害者数は減少している。
これは治安の強化や、市民の関心を呼び起こすために、殺人事件が起こるために赤いペンキで人の形を描きつけるというレシフェ市のジャーナリストらの努力などにも支えられている。
しかし、その対策はまだまだ十分とはいえず、都市では農村部などより殺人が多いという世界的な傾向以外に、殺人事件が北伯、北東伯で増加傾向という点に注目する必要がある。
専門家は、ブラジルの殺人事件は、社会的不平等(社会的格差)と、抑圧のみによる治安対策の遅れとが大きな原因と見ている。また、治安対策面での不安材料として、警察に、中・長期の対策を練ろうという熱意がなく、犯罪対策もパトロールと捜査が中心で、犯罪者の先を読み、先手の対策をとるというレベルに達していないことを挙げている。
同紙によれば、現在、人口当たりの殺人が多いのはペルナンブコ州、エスピリトサント州、リオ州の順。
サンパウロ州については、十一月二日のフォーリャ紙に、二〇〇六年は一日平均一八人が殺されていたが、〇七年には一日平均一四人となったと報じられていたが、二十一日付けエスタード紙はこの減少傾向がさらに続いていると報道。この傾向が続き、都市第一コマンドによる大量殺害事件等がなければ、今月中にでも一〇万人当たりの殺人被害者数は九・八人となる見込みという。これは世界保健機構による世界平均値の範囲。