ニッケイ新聞 2008年1月30日付け
◇獣の話(8)
貧歯類
〔鎧鼠、タツーの続き〕
狩りなどをしていて、タツーを見つけて追いかける。穴の中に逃げ込まぬ先に蹴転がすか、犬が捕まえるかしなければ、穴の中に頭を突っ込んだが最後、どんなに尻尾を掴んでも引っ張り出すのは不可能である。しっぽが先細りになっていて、力がはいらぬ上に、滑りやすくなっていて、前肢でドンドン穴を掘って先へ行くので、とてもじゃないが、抑えきれない。
ある日、そういう話をしていたら、インジオ出身の者が「ナーニ、そういう時は尻尾を握って上の方に押し上げながら、肛門に指をグイグイ捻じ込むんだ。すると、とたんにグンニャリとなって、わけなく引き出せるもんだ」と言う。まだ試したことはないが、一理ありそうに思われる。
一月頃に仔が生まれて、森の中をヨチヨチ歩いているのを見かける。可愛らしいので捕らえて飼ってみたが、穴を掘って逃げてしまうので、どうにもならない。
〔有袋類〕
〔ムクーラ〕
サルエーまたはサルゲーともいう。所によってはガンバーともいう。ガンバーは、北米ではスカンクのことである。
猫くらいの大きさで、狐か犬みたいな顔をしている。黄褐色、尾に毛はない。夜行性で鶏を襲い、あるいは果樹を荒らす。仔をたくさん背に乗せて歩いているので、守鼠の名がある。悪臭があるが、それは毛皮だけで、肉は鶏似で美味の由である。
私もたくさん殺したことがあるが、臭くてとてもじゃないが、皮など剥ぐ気持になれない。
〔ムクーラ・シシカ〕
大きい鼠くらいある。茶褐色である。鳩舎を襲って、卵を食べたりするが、主に果実を食する。
◇鳥の話(1)
〔コンドル〕
アマゾニアの鳥類中最大である。アンデス山脈中に棲む。低地帯に姿を見せないので省略する。
〔ウルブー〕
アマゾニアに限らず、汎く夥しく存在する。頭と頸は羽毛がなく黒く、翼、体部、尾羽根ともに黒いが「髪は烏の濡れ羽色」といったような、光沢のある黒でなく、どこか煤けているような黒さである。抜き足差し足でヒョコリヒョコリと歩く様子は「黒装束の曲者」を連想させる。
腐敗した有機物を食べ、そのせいか全身から悪臭を放つ。汚物や屍体を掃除してくれる重宝な面もあるが、悪い病気を伝播させることもある。功罪相半ばすると言いたいが、功のほうが多いようである。そのために、不吉な姿をしていて、人から嫌われるにもかかわらず、保護鳥になっていて、無闇に殺してはいけないことになっている。
これを悪童どもが捕らえていじめたことがあったが、口から何やら汚いものを吐き出して振り回し、これが悪童どもにかかると、その物凄い悪臭にさすがの悪童どもも、ウルブーを放り出して逃げてしまった。
割合賢い鳥で、以前、ピラルクーの塩蔵物をたくさん干していたとき、ウルブーが寄ってきて、つついてしようがないので、丈夫な釣り糸に釣針をつけ、肉を餌にして置いたらすぐかかった。手で持つと、例の汚い汁を引っ掛けられるので、紐に輪をつくり、首に引っ掛けてぶんぶん振り回して締めてしまった。そして、その死体を木にブラ下げ、ピラルクーの近くに立てて置いたら、その後一羽も近寄らなかった。
同じ種類であるが、ウルブー・レイ(王兀鷹)は普通のウルブーよりずっと大きい。ウルブー・チェレバ(赤頭兀鷹)は普通の大きさであるが、頭が赤い。さらにウルブー・チンガ(もっと小型)などがある。
〔ガヴィオン〕
鷲とも鷹とも訳され、大はガヴィオン・レアル、翼長一メートル五十センチ以上より、カウレー翼長十七センチまで、たくさんの種類がある。中でも尾が燕のように二又に分かれているため、鋏鳥(テゾウロ)と呼ばれる種類は蝉を好んで食する。
蝉時雨ハタと止みしに見 上ぐればテゾウラ群れて 木の間縫ひ来る
急降下超低空とテゾウラ は木の間を縫ひて蝉狩り 立つる
夜禽類は、たくさんの種類の木兎及び梟がある。つづく (坂口成夫、アレンケール在住)
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(1)=獰猛なジャカレー・アッスー=抱いている卵を騙し取る猿
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(2)=示現流の右上段の構えから=ジャカレーの首の付け根へ…
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(3)=ジャカレーに舌はあるか?=火事のとき見せる〃母性愛〃
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(4)=スルククー(蛇)は〃強壮剤〃=あっさり捕らえ窯で焼き保存
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(5)=4メートル余りの蛇退治=農刀、下から斬り上げが効果的
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から連載(6)=伝説的大蛇、信じられるか?=残されている〃実在〃証拠写真
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(7)=両頭やミミズのような蛇も=インジオは怖がるが無害
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(8)=家畜連れ去る謎の牝牛=〝初〟アマゾン下りはスペイン人
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(9)=多彩なアマゾンの漁=ウナギ怖がるインジオ
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(10)=日本と異なる釣り風景=魚獲りに手製の爆弾?
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(11)=商品価値高いピラルクー=カンジルー、ピラニアより危険
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(12)=ジュート畑でショック!=馬をも飛ばすポラケー
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(13)=生殖の営み見せつけるイルカ=インジオは何故か怖がる
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(14)=聖週間の時期〃神が与える〃=魚の大群「捕らえよ」と
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(15)=柔和が裏目、哀しきジュゴン=漁師に習性知られ、あえなく…
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(16)=ミーリョ畑荒らす尾巻猿=群れの首領株仕留めて防御
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(17)=ケイシャーダ性質凶暴=遠雷にも地鳴りにも似る
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(18)=野性すべて備えた=南米産獣の王者=美麗な毛皮のオンサ
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(19)=カザメント・デ・ラポーザ=ここにもこの言葉「狐の嫁入り」
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(20)=狩猟で得られる肉の中で最高=パッカ、胆汁は血清のよう
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(21)=吸血蝙蝠、互いに毛を舐め合う習性=毒塗って放し、舐め合わせ駆除
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(22)=動作緩慢、泳ぐ「なまけもの」=アマゾン河横断の記録も