ニッケイ新聞 2008年1月31日付け
百周年を機に、デジタルTV方式に続く新しい日伯経済振興の起爆剤として、ブラジルで検討を始めた高速鉄道整備計画に、日本政府と民間企業が一緒になって、日本方式の新幹線システムの導入を働きかける動きがでてきた。読売新聞十二月三十一日付けでは「新幹線をブラジルに 大統領来日時、採用要請へ」と記事が一面の三段記事で掲載された。実現すれば、台湾新幹線に次いて、世界で二番目。ブラジル国民の生活の足となるプランだけに、実現すれば、百周年に相応しい新時代の友好協力関係の柱になりそうだ。高速鉄道構想に関する現在までの動きをまとめてみた。
交通大臣などの発表によれば、総工費は百十億ドル(約一兆千七百六十億円)で韓国、イタリア、フランスなども興味を示している。サンパウロ市とリオ市を結ぶ全長五百十八キロの高速鉄道網を整備し、時速二百八十キロで駆け抜ける計画だ。
二〇〇九年に工事入札をし、一〇年に工事開始、一五年から運行開始を目指している。最初にリオ市―サンパウロ市間、続いてサンパウロ市―カンピーナス間が着工される計画だ。リオ・サンパウロ市間の乗車賃は六十ドル(百六レアル)で、一時間二十五分でつなぐ。サンパウロ市―カンピーナス市間は二十五分間。
一昨年来の空港危機により、地上交通に関心が高まったのが追い風になり、両都市の主要国際空港もこの交通機関で結ぶ。
リオ州交通局の調べでは現在、両都市間には九百万~千百万人の移動客がおり、飛行機、自動車、バスなどを使っている。今後五年間で千七百万人まで需要が伸びると予測している。
ブラジル政府は今月、この構想を経済活性化計画(PAC)の一部に組み込み、実現に向けた強い意志を示した。社会経済開発銀行(BNDES)による事業採算性調査が八月までに結果がでるので、それを米州開発銀行(BID)や世界銀行が監査し、十月に正式に公示する。
二十五日付けアジェンシア・エスタードによれば、連邦下院議会の調査では、現在までに政府が発表している数字は「幻想的だ」と疑問を呈した。例えば、イタリアのイタウプラン社が一二年に三千二百万人の利用者を予想し、その数字を前提に初期投資が回収できる計算をしている。それに対し、議会コンサルタントは「昨年のリオ・サンパウロ市間の飛行機、車、バス全ての往来をたしても八百万人にしかならない。全ての乗員を四倍しないとその数字にならない」と採算性を疑う。
一方、二十四日付けビンダ・バーレ紙によれば、イタウプラン社の計画ではリオ―サンパウロ市間の運賃百二十レアルと予測するが、韓国のKTX (Korean Train Express)の計画では八十レアルに抑えるものだという。韓国関係者が最近、バーレ・ド・パライバを訪れ、駅候補地を視察したという。
二十九日付けアジェンシア・エスタード紙によれば、ブラジル世論統計研究所(IBOPE)の調査によれば、飛行機と同じ値段なら五八%が高速鉄道を選ぶと答え、運賃が百二十レアル以下なら六三%がこの交通手段を選択するとしている。また現在、駅候補地とされているのはヴォルタ・レドンダ、レゼンデ、タウバテ、サンジョゼ・ドス・カンポス、グアルーリョスなど。
二十三日付けフォーリャ・オンラインによれば、交通大臣は入札に関して「同じ総工費と五年間の工期という条件の中で、より安い運賃を提案できる企業が勝つ」と話している。
十二月三十一日付け読売新聞は、「二〇〇八年は日本からの移民百周年を記念した『日本ブラジル交流年』にあたり、政府は新幹線を新たな友好協力関係の象徴にしたい考えだ」とし、「来年(〇八年)予定されているルーラ大統領訪日時に正式要請する」と報じた。また、同記事には、リオ―サンパウロ市間は山が多いため、高度なトンネル技術を持つ日本への期待が高まっているともあり、三井物産などを中心とした日本企業による「ブラジル新幹線」実現への動きが活発化していると報じている。
これに対し、在ブラジル日本国大使館の高速鉄道担当、山本貴弘二等書記官は「日本政府としても、民間企業の動きがあれば、それを支援していく」と前向きの態度を示した。「二〇〇八年にこういう話が出たのは大変象徴的」とし、デジタルTVに続く、先端分野での日伯経済交流の目玉になる可能性を示唆した。