ニッケイ新聞 2008年2月9日付け
◇鳥の話(3)
水禽(渉禽類および游禽類)
アマゾンは水の天国であるため、水鳥はその種類も数量も極めて多い。航行中に常に目につくのは鷺類(ガルサという)。色も形も大きさも様々で特に中、小型ものが多く、何十羽となく舞っている様はたいへん美しい。
この大型のものにマグワリーがある。羽を広げると二メートル近くになる。コウノトリに似たヂャブルー、鶴に似たパッサロン、鵜の一種カララーがあり、たくさんの鵜が川沿いの木に止まっているのも奇観である。
鴨類には大型のパット・ブラボまたはパット・ド・マット、中型のマレッカ、小型のマレッカ・アナナイーがある。
着伯後しばらくして入植した所は、湖水のような所に面していて、たくさんの浮草が島を作っていて、鴨類が多く、時期によっては毎朝早くカノアで狩りに出かけて、その日の食糧を得ていた。
朝、暗いうちに起きて、カノアを漕いででかける。鴨のいる島陰にカノアを回して風上のほうからそっと近づく。近づくにつれて漕ぐのを止めて、後は風に乗って徐々に進む。銃は撃鉄を起こして膝の上へ。だんだんと近づくにつれて、薄明るい朝の光った水面に点々と鴨の浮いているのが見える。
カノアはだんだんと近づく。かって真珠湾でズラリと並んだ米軍の艦隊に向かって奇襲をかけた攻撃隊もこんな気分だったろうと思われるほど、緊張と「我、奇襲に成功せり」という喜びのゾクゾクっとした思い…といえば、大袈裟になるが…、まずそんな気分である。
近づけるだけ近づいて、一番寄り合っている所の真中に狙いをつけてドンと一発。とたんにバサバサ、ザーと飛び上がる。してやったりとカノアを漕ぎつけると、二羽はじっと浮いていて、一羽はバサバサと逃げるようにしているが、飛べない。
追いかけて捕らえようとすると、嘴で突っかかってくる。櫂でひっ叩いて捕らえる。浮いているのは、もう虫の息である。拾い上げてカノアに放り込む。しばらく経って明るくなると、もっと大型の鴨が群れで上を通り過ぎる。
航空士官学校時代に叩き込まれた対空射撃の追随待撃というやつで、手ごろな所を通り過ぎる鴨に狙いを定めてズドンと一発、鴨は石ころのように墜落する。ところが運悪く浮草の島の中に落ちる。カノアは入れぬ、上を歩くこともできない。
草は、三十センチくらいの厚さになって浮いているが、歩こうとすると、ズブズブといく。一計を案じて棹と櫂を足にくくりつけて、スキーで雪の上を歩くように、パタン、ペタンと歩く。旨い具合に草の浮力で沈まない。
やっとたどり着いて、鴨を拾い上げ、カノアに戻りかけたところで、平均を失って片足が櫂からはずれた。あっと思ううちにズブズブ沈没、慌てて棹に掴まって這い上がり、櫂を履き直してカノアに辿り着く。
草の中にズブリとはまったときは、ワッとばかりにたくさんの虫が頭や首にたかったり、服の下に入り込んで、ズルズル、ゴソゴソ這いまわったり、喰いついたりする。そこでカノアに着くなり、直ぐに服をぬいで真っ裸、ドブンと水に飛び込んで体を洗い、服も水で濯いで虫を洗い落とす。少々のことには驚かないが、この虫群の攻撃にはお手上げである。
朝まだきカノア寄すれば 島陰の浮稲薙ぎて鴨のむ れたつ
明けそめて地は猶暗き森 陰に野鴨の群は友呼びて 鳴く
(浮稲は野生稲。水が増えるにつれて伸び続け、七、八メートルにもなる。さらに水が増えると、根は地から離れて浮遊する。五十センチくらいが常に水上に直立して、これがたくさんあると、田圃のような眺めである)。
つづく(坂口成夫、アレンケール在住)
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