ニッケイ新聞 2008年3月12日付け
◇昆虫の話(4)
蜂類
[カーバ・プレチニョ]
カーバ・ベイジューと同じく、潅木の葉の裏などに巣を作っていて、不注意にこれを伐ったり叩いたりすると、たちまちワッと顔にたかって来て螫(さ)す。開拓初期は慣れないので、ほとんどこれに連日やられて、毎日顔を腫れさせて帰っては笑われたものだった。蜂に螫されて腫れた顔など本人はシュンとしているが、他目には滑稽なだけである。
仕事中にこれを見つけると、大きいのは火で焼くが、小さいのは細かい枝のたくさんついた枝を両手に持って、巣を叩き落すと同時に、舞い上がってくる奴を片っ端から叩き落す。あるいは上着を水に濡らして絞り、そーと近寄ってパッツと包み込んでもみ殺すか、踏み殺して片付ける。開拓の初期はほとんどこれとの闘いである。
蜜蜂も量も種類も多い。ときどき密林の中で巣を見つけて,時ならぬおやつにあづかることもある。
鱗翅類
蝶類、餓類、ともに種類も量も多い。乾季など水の近くにモンシロチョウに似た白いのや、黄色いのが雲のように集まっているのに出会う。
稀にではあるが、いも虫の大群に出会うことがある。次々と前のに乗って進んでいく。時には幅二メートル、長さ何メートルかにおよぶのがある。こんなのにやられたら野菜畑などは、一晩のうちに形無しになってしまう。
美しい蝶の翅を集めて風景画などの額にして、お土産品として売っているのもある。
双翅類
蝿、虻、蚋(ぶよ)、蚊などがあるが、病害は猛獣毒蛇の害に勝る。
ウラ蝿というのがある。その卵を皮膚に産み付けるが、それが皮膚を破って中に入り、皮下で幼虫になり、成長する。大きくなると疼痛が激しいので、押し出したり切開したりして取り出す。
ビッシェイラというのがある。不注意にこれを化膿させたり、手当てしないでいると、これにたかって卵を産み付ける。蛆がたくさんわいて、ひどい目に遇う。
ムトウカというのは虻である。大小あって大きいのは日本のウジバエに似ている。小さいのは黒紫色で動作はすばやい。
メルインまたはマルイン。蚋である。所によってはこれが多く、刺されると手足がブツブツになる。これの一種にボラシュードというのがいる。これは熱帯潰瘍、一般にフェリーダ・ブラバ(フェリーダは傷、ブラバは猛烈あるいはたちが悪い、という意)、手足などに銭型の潰瘍ができて、何年も治らない。これを媒介する。
私も一回これにやられたことがある。二十年以上も前のことになるが、咽喉が腫れて、始めのうちは抗生物質などでよくなっていたが、次第に悪化してベレン市の日伯援護協会の病院で診てもらったが、どうしても埒(らち)があかぬ。
ベレン市で一番といわれる専門医に一年近くかかったが、どうしてもよくならぬ。とうとうサンパウロのパウリスタ医大の先生を紹介してくれた。その先生の紹介でサンパウロで最良といわれるグループの耳鼻咽喉科の医師の所に行った。
そこでたくさんの試験をしたところ、一つを残して後は全部陰性と出た。一つ残ったのはライスマニョーゼ・ブラジリエンシス、略称フェリーダ・ブラバである。アンチモン製剤の注射を二百本打ってやっと解放された。
これを治さないで放っておくと、鼻のひさしが落ちて、顔の真中に穴が二つという梅毒まがいの格好になってしまりがつかない。尤も、その前に何も咽喉に通らなくなってお陀仏ということにもなる。つづく
(坂口成夫、アレンケール在住)
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(1)=獰猛なジャカレー・アッスー=抱いている卵を騙し取る猿
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(2)=示現流の右上段の構えから=ジャカレーの首の付け根へ…
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(3)=ジャカレーに舌はあるか?=火事のとき見せる〃母性愛〃
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(4)=スルククー(蛇)は〃強壮剤〃=あっさり捕らえ窯で焼き保存
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(5)=4メートル余りの蛇退治=農刀、下から斬り上げが効果的
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から連載(6)=伝説的大蛇、信じられるか?=残されている〃実在〃証拠写真
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(7)=両頭やミミズのような蛇も=インジオは怖がるが無害
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(8)=家畜連れ去る謎の牝牛=〝初〟アマゾン下りはスペイン人
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(9)=多彩なアマゾンの漁=ウナギ怖がるインジオ
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(10)=日本と異なる釣り風景=魚獲りに手製の爆弾?
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(11)=商品価値高いピラルクー=カンジルー、ピラニアより危険
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(12)=ジュート畑でショック!=馬をも飛ばすポラケー
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(13)=生殖の営み見せつけるイルカ=インジオは何故か怖がる
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(14)=聖週間の時期〃神が与える〃=魚の大群「捕らえよ」と
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(15)=柔和が裏目、哀しきジュゴン=漁師に習性知られ、あえなく…
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(16)=ミーリョ畑荒らす尾巻猿=群れの首領株仕留めて防御
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(17)=ケイシャーダ性質凶暴=遠雷にも地鳴りにも似る
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(18)=野性すべて備えた=南米産獣の王者=美麗な毛皮のオンサ
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(19)=カザメント・デ・ラポーザ=ここにもこの言葉「狐の嫁入り」
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(20)=狩猟で得られる肉の中で最高=パッカ、胆汁は血清のよう
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(21)=吸血蝙蝠、互いに毛を舐め合う習性=毒塗って放し、舐め合わせ駆除
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(22)=動作緩慢、泳ぐ「なまけもの」=アマゾン河横断の記録も
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(23)=「黒装束の曲者」ウルブー=保護鳥、「功」が「罪」より多い
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(24)=群鳥を圧するかのように=猛々しく鳴くアララの雌雄
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(25)=早朝、カノアを漕いで鴨猟に=まるで奇襲を試みる緊張感
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(26)=入植直後カマリオンに遭遇=敏捷、鎌で仕留められず
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(27)=飼われて家に居つく亀=猛毒、身を捨てて毒蛇を殺す
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(28)=体が美しくて猛毒の蛙=解毒にはインジオの薬
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(29)=昆虫に対する知識は不可欠=一朝で収穫や命を失う恐れ
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(30)=胡麻植えサウーバ退治=雨季、増水で流される〃火の蟻〃
アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(31)=サウーバより怖いコレクソン=肉食性、大群通り過ぎるのを待つ