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アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(32)=恐ろしいメルイン(ぶよ)=刺されると潰瘍、容易に治らぬ

ニッケイ新聞 2008年3月12日付け

◇昆虫の話(4)
蜂類
 [カーバ・プレチニョ]
 カーバ・ベイジューと同じく、潅木の葉の裏などに巣を作っていて、不注意にこれを伐ったり叩いたりすると、たちまちワッと顔にたかって来て螫(さ)す。開拓初期は慣れないので、ほとんどこれに連日やられて、毎日顔を腫れさせて帰っては笑われたものだった。蜂に螫されて腫れた顔など本人はシュンとしているが、他目には滑稽なだけである。
仕事中にこれを見つけると、大きいのは火で焼くが、小さいのは細かい枝のたくさんついた枝を両手に持って、巣を叩き落すと同時に、舞い上がってくる奴を片っ端から叩き落す。あるいは上着を水に濡らして絞り、そーと近寄ってパッツと包み込んでもみ殺すか、踏み殺して片付ける。開拓の初期はほとんどこれとの闘いである。
蜜蜂も量も種類も多い。ときどき密林の中で巣を見つけて,時ならぬおやつにあづかることもある。

鱗翅類
 蝶類、餓類、ともに種類も量も多い。乾季など水の近くにモンシロチョウに似た白いのや、黄色いのが雲のように集まっているのに出会う。
 稀にではあるが、いも虫の大群に出会うことがある。次々と前のに乗って進んでいく。時には幅二メートル、長さ何メートルかにおよぶのがある。こんなのにやられたら野菜畑などは、一晩のうちに形無しになってしまう。
 美しい蝶の翅を集めて風景画などの額にして、お土産品として売っているのもある。

双翅類
 蝿、虻、蚋(ぶよ)、蚊などがあるが、病害は猛獣毒蛇の害に勝る。
 ウラ蝿というのがある。その卵を皮膚に産み付けるが、それが皮膚を破って中に入り、皮下で幼虫になり、成長する。大きくなると疼痛が激しいので、押し出したり切開したりして取り出す。
 ビッシェイラというのがある。不注意にこれを化膿させたり、手当てしないでいると、これにたかって卵を産み付ける。蛆がたくさんわいて、ひどい目に遇う。
 ムトウカというのは虻である。大小あって大きいのは日本のウジバエに似ている。小さいのは黒紫色で動作はすばやい。
 メルインまたはマルイン。蚋である。所によってはこれが多く、刺されると手足がブツブツになる。これの一種にボラシュードというのがいる。これは熱帯潰瘍、一般にフェリーダ・ブラバ(フェリーダは傷、ブラバは猛烈あるいはたちが悪い、という意)、手足などに銭型の潰瘍ができて、何年も治らない。これを媒介する。
 私も一回これにやられたことがある。二十年以上も前のことになるが、咽喉が腫れて、始めのうちは抗生物質などでよくなっていたが、次第に悪化してベレン市の日伯援護協会の病院で診てもらったが、どうしても埒(らち)があかぬ。
 ベレン市で一番といわれる専門医に一年近くかかったが、どうしてもよくならぬ。とうとうサンパウロのパウリスタ医大の先生を紹介してくれた。その先生の紹介でサンパウロで最良といわれるグループの耳鼻咽喉科の医師の所に行った。
 そこでたくさんの試験をしたところ、一つを残して後は全部陰性と出た。一つ残ったのはライスマニョーゼ・ブラジリエンシス、略称フェリーダ・ブラバである。アンチモン製剤の注射を二百本打ってやっと解放された。
 これを治さないで放っておくと、鼻のひさしが落ちて、顔の真中に穴が二つという梅毒まがいの格好になってしまりがつかない。尤も、その前に何も咽喉に通らなくなってお陀仏ということにもなる。つづく
(坂口成夫、アレンケール在住)



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