ニッケイ新聞 2008年3月15日付け
「私たちは、愛と正義によって建て上げられた大学が、ブラジルが常に抱えてきた大きな社会的負債の一つを償い、その痛みを和らげるという大きな役割を果たしてくれているのを目の当たりにしています」―これは、十三日に行われた、通称ウニパウマーレスで知られる新設大学の初回卒業式で元サンパウロ州知事のアウキミン氏が送った祝辞の一部。一二六人の卒業生中一一〇人が黒人系という異色の大学の第一期生たちは、学歴というパスポートを手にし、社会格差という壁を超えて、巣立っていった。
逃亡した黒人奴隷たちが自らの手で建設した黒人社会パウマーレス。そのリーダー、ズンビの名は良く知られているが、正式名称をウニヴェルシダーデ・ダ・シダダニア・ズンビ・ドス・パウマーレスとする同校は、黒人に高等教育の道を開くことが目標の一つ。このため、定員の五〇%が黒人枠で、大手企業からの支援も受け、私立大学としては破格の授業料で経営学と法学の二コースを教えている。日中は働けるよう授業は夜で、実習の場も支援企業や公共機関が提供してくれるばかりか、卒業時には七〇%の学生が銀行などへの就職が決まっている。
非政府組織Afrobrasにより二〇〇三年に創設が決まり、二〇〇四年に開学した同校は、学長を含む九〇人の教授陣中四七人が博士号を持った黒人。サンパウロ総合大学(USP)では五四〇〇人の教授中、博士号を持った黒人教授は四人という数字と比較すると、いかに黒人教授が多いかがわかる。
また、学生に至っては八七%が黒人系で、ほとんど全員が公立校出身者。全国では大学在籍者の二%が黒人系(十三日付けフォーリャ紙によればUSPでも一〇%程度)という数字を挙げ、「この国は(一二〇年前とは)異なった形の奴隷制度を残している」と語ったのは、元閣僚で、現在はリオ市の社会活動局長シウヴァ氏。
黒人音楽家らによる演奏などもあったが、来賓の一人で俳優のゴンサウヴェス氏が、奴隷制度と黒人社会が今日も直面する様々な困難に触れ、「君たちは今、自由なんだ」と語った時には、式場全体が大きな感情のうねりに包まれた。
十四日伯字紙によれば、式典には、ルーラ大統領夫妻ほか、閣僚七人、サンパウロ州知事やサンパウロ市長らも出席し、第一期生として卒業した一二六人にエールを送った。