ニッケイ新聞 2008年3月19日付け
西日本新聞の東京支社報道部の内門博記者(37、福岡県出身)が六日から二週間にわたり、ブラジルに渡った炭鉱移民を描いた『出ニッポン記』などを執筆した記録文学作家、上野英信氏(1923―87)の足跡をたどる、百周年記念連載のための取材を行った。
虐げられていたユダヤ人を率いて、モーゼがエジプトに安住の地をもとめて移動する旧約聖書の「出エジプト記」の逸話にイメージをダブらせて、上野さんは、日本から出ていった同胞の姿を『出ニッポン記』で生き生きと描いた。
昨年三月に三週間訪れたのに続き、今回取材した印象を、「上野さんだったら、デカセギを複雑な思いで見ただろうな」と内門さんは推測する。上野さんが亡くなったあとデカセギ現象が本格化し、当地が〃安住の地〃とはならなかった現実が明らかになった。
今回はサンパウロ市、ベレン、カスタニャール、カンポ・グランデ、バルセア・アレグレ、バストスなど回り、上野さんが取材した移民十人ほどに、その後の様子を聞いて回った。「足跡を半分はたどれた」と自負する。
地方の移住地などを訪ねた印象を、「日本が豊かになって忘れてしまった部分、家族同士の助け合いとかがブラジルには残っていると感じた」と語った。
ようやく探し出して取材した北郷(ほんごう)平八郎さんについて、「もの凄く苦労しているだろうけど、浪花節ばかりではない。どこか飄々としていて前向きなところがある」という移民ならでは姿が強く印象に残っているという。
十七日に帰国。日本国内での取材を加え、七回以上の連載をする予定。