ニッケイ新聞 2008年3月20日付け
時折り、サンパウロ市セントロを気ままに散策する。セー広場から三月二十五日街方面、工具問屋が並ぶフロレンシオ・デ・アブレウ街などは特に気に入っている。先週たまたま同アブレウ街を歩いた時、物売りの口上を聞きながら笑ってしまった▼「さあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。これはマナウスで作った最新式のアンテナだ。なんとデジタルTV放送対応で、日本の最新技術がここに詰まってるよ。それがなんと十レアル。さあ持ってけ!」と調子のいいかけ声。黒山の人だかりをかき分けて覗いてみると案の定、一カ月前にも見た同じ商品に「Systema digital」と書いた紙のシールが新しく貼ってあるだけ▼もちろん、本物の受信装置なら最低でもその二十倍以上する。この光景を見て、少なくともデジタルTV放送に日本の先端技術が投入されていることが、下々の庶民にまで知れ渡っていることが分かった▼ある意味、ここまで認知されればあとは価格の問題だ。放送エリアが拡大して量産体制に入れば安くなり普及するだろうという妙な確信を得た▼訪日中のペルーのガルシア大統領は、デジタルTVの規格で日本方式を導入することに「かなり前向き」だとの報道が入ってきた。実現すればブラジルについで二国目だ。先日は日伯合同の使節団がチリへ日伯デジタル方式の売り込みに行った。経済関係において日伯両国は、新段階に踏み出したと感じる▼そういえば〇六年に日伯がデジタルTVの覚え書きを交わしたが、進出企業の先駆けの藤崎商会(宮城県仙台市)がこのセントロ界隈に店を構えたちょうど百年後だと気付いた。(深)