ニッケイ新聞 2008年3月27日付け
社内のブラジルへの投融資残高は約三千五百億円、いわば社運をかけて日伯経済関係に重きをおく三井物産。停滞した九〇年代後半を乗り越え、〇三年にはヴァーレ社へ一千億円を投資したのを皮切りに、大前孝雄(58、兵庫県出身)ブラジル社長は次々に新しい戦略を打ち出し、鉄鉱石や天然ガス等の資源関係などを担い、両国関係を補完する役割を果たすまでになった。大前社長は五月に帰国するにあたり、新任の中山立夫氏(55、栃木県出身)とともに来社し、この八年間の経緯を説明した。
「心の半分はここに置いていきます」。大前社長は初赴任の七七~八三年、八九~九五年に続き、今回は〇〇年から八年間をつとめ、計二十年間の駐在期間を持つブラジルエキスパート。
六〇年代からブラジルでの取引を始め、資源エネルギー、農業、インフラ、国内マーケットの四つの分野で事業拡大を図ってきた。
九八年のブラジル経済混乱で打撃を受けた。赴任してから二年間は、ブラジルへの投融資・保証などの金額を減らさないように本社と交渉するだけで大変だったが、「〇三年ごろから変わった」と振り返る。
鉄鉱石海上輸送量で世界の三割を占めるヴァーレ社への一千億円(八億ドル)の間接投資をキッカケに〇四年から関係強化が始まり、〇六年にはペトロブラスへとのガス配給事業に三〇〇億円、さらに食料資源確保の観点からバイア州での大豆・綿花の八万ヘクタールの農場を確保し、生産事業も始めた。
国内マーケットに関しても、シャープ製AV家電製品及び事務機や、自動車の販売会社も設立をした。
大前社長は「社内の投融資残高ではブラジルが一番。二番ロシア、三番インドネシアからぬきんでている」と自負する。ブラジルでの関係会社約十社、日本からの派遣人員も五十人を数える規模になった。
本社の槍田松瑩社長自らが経団連の日伯経済委員長、日伯交流年実行委員長として、両国間の交流促進に陣頭指揮をとっている。
二国間の関係において、日本移民が果たしてきた役割、日系人の重要性を念頭に置き、〇五年から日本にあるブラジル人学校への支援も始めた。昨年は十校に対して、五百万円以内の教育関連品を贈った。
大前社長は「今年は移民百周年、もっと盛り上げていきたい。サンパウロ州政府教育局に協力して、ブラジル側での帰伯子弟の受け入れ支援のお手伝いを検討しています」という。
帰国後はプロジェクト本部長(常務執行役員)として資源エネルギー、鉄道、電力関係の部署を担当、「ブラジルとの縁は続きますよ」と笑う。「後ろ髪引かれる思いです」。
中山新社長は八二~八六年、九三~九七年にチリに赴任して自動車販売事業を手がけ、その後、昨年からカナダ三井物産社長として赴任したばかりだったが、四月一日付けでブラジル社長に着任する。「現在の陣容の力を一二〇%発揮できるように、コーディネートしていきたい」と抱負をのべた。