ニッケイ新聞 2008年4月12日付け
子供の頃、風呂に入るとお袋がよく「前畑頑張れ」や棒高の西田修平と大江季雄両選手の「友情のメダル」の話をしてくれた。あのヒトラ―が開いた1936年のベルリン五輪で河西三省アナの実況放送を思い起こし、ドイツのマルタ選手を振り切って金メダルを手にした前原選手の平泳ぎによほど感激したのだろう。今、世界が大騒ぎしている五輪聖火を初めて取り入れたのも、この第11回ベルリン・オリンピックなのである▼ヒトラ―のユダヤ人弾圧への批判は、あの当時も激しかったけれども、北京五輪の聖火リレ―のような妨害はない。チベットのラサ暴動に対する中国の弾圧や制裁に反発しての抗議であり、ギリシャでの聖火採火式に始まりトルコ、ロンドン、パリ、サンフランシスコと人権問題で中国を非難する動きは各国に広がっており、厳しい状況になっている▼中国が関与しているとされるス―ダンのダルフ―ル40万人虐殺も絡んでいて南アのツツ元大司教が、米サンフランシスコの抗議集会に駆けつけ「ブッシュ大統領ら各国指導者は北京に行くな」と呼びかけ、ブラウン英首相も開会式には出席しないの声明を発表、仏のサルコジ大統領も微妙な立場にある。欧州各国も北京五輪へ厳しい態度を崩していない▼まさか80年のモスクア五輪のようにはなるまいが、ここは中国政府が寛大で穏やかな政策に転換して欲しい。ダライ・ラマ14世を「分裂主義者」と極めつけるだけではなく、ブッシュ大統領も提案しているインドにあるチベット亡命政府とじっくりと話し合うのも平和的な解決への有力な手段ではないのか。 (遯)