ニッケイ新聞 2008年5月7日付け
去る四月十四日、ANP(ブラジル石油所管庁)長官は、PETROBRAS(石油公団)がサントス沖海域で世界的規模の油田を発見したと公表しました。その規模は埋蔵量において「世界でも五本の指にはいり、過去三十年間で最大の発見だ、」というのです。この朗報に株式市場は直ちに反応し、PETROBRASの株は五%から七%も値上がり、皆が「スゴイな、」と思いました。「これでブラジルも世界大国の仲間入りが出来、我々の暮らしも楽になるか?」と期待を持ったのです。
しかし、その後の展開がさっぱりです。話の内容が海の底のことで、素人には分り難い上、その後それを補足するようなニュースもないのです。一体この話の真相はどうなのでしょう? 以下、一緒に考えてみましょう。
◇石油はどこのあるのか?
1、まず、海底油田とは文字通り、海の底に埋蔵されている石油、ガスのことで、現在では世界の石油生産の四分の一以上、この比率は今後だんだんと増えていくといわれております。
世界の海底油田で有名なのは北海油田(欧州)、メキシコ湾岸、サハリン(旧樺太)、東シナ海などで、ブラジルはまだこのリストに入っていません。日本にも海底油田はあり、新潟県ー阿賀沖、岩船沖などが知られております。
2.ブラジルで今、話題になっている新油田はPRE-SAL(前岩塩)層です。E・サント洲から、S・カタリーナ洲にかけての八百キロの海域に位置しています。(図参照)。ブラジルの工業の中心地に近いため、経済価値が高い訳です。
3.問題はそのPRE―SAL層ですが、これは従来開発されていなかった岩塩層の下にあり、海面下、五千米から七千米の間に位置しているのです(図参照)。
今回埋蔵が確認されたという油田は仮に「カリオカ」と呼ばれていますが、この「カリオカ」は前に発表された「TUPI」油田の近くにあり、サントス海岸から二百キロくらい離れた海域にあります。
正式には「BMS-9」ブロックとよばれ、このブロックの権利者はPETROBRAS(四五%)、B.G.(英国)(三〇%)、PEPSOL-YFP-(スペインなど―二五%)となっております。
◇なぜはっきりしないのか?
現在石油の価格上昇が問題となっており、一バレルあたり百十ドルを超えた価格は世界的な関心事です。皆が、この大油田の話の続きを知りたいのに、なぜこの「すごい話」は水面下から沸きあがったガスの泡のように、スーと消えたのでしょう。それには大体以下のような要因が考えられます。
1、こういう重大なニュースは所管の鉱業エネルギー大臣とか、試掘をやったPETROBRAS総裁、あるいは政治的に利用するなら、大統領などが発表するのが当然なのに、石油所管官庁の長官あたりがいきなり発表したのはまずい、正式発表まで下っ端は情報をもらすな、と「抑え」がでた。
2.五千米もの海底での採掘技術は確立しているか?、技術的に可能でも採算があうのか?、採れもしない石油では、月で金鉱山が見つかったと同じで、「絵に描いたもち」でないか?、そんな話を公表して経済社会混乱さしてはいけない。
3.このPRES-SAL層の油田は実は極めて有望な油田である。今のままでは外国の巨大資本に乗っ取られ、いい汁は吸われてしまう。乗っ取られないまでも、そういう「うまい話」があるなら、できるだけわれわれ仲間でよい権利を抑えよう。その独占の準備のために外部には情報をもらすな。
などです。
◇
では以上のどれが本当なのでしょうか?、ちょっと検討してみましょう。
1)これはもっともなことです。日本などでは階級がはっきりしていて、所管でない官庁の人などは外部に発表などしません。でも、事実がはっきりしてきたら、しかるべき人、タイミングで発表が行われるでしょう。
2)日本の阿賀沖の海底油田は規模も「子供のままごと」程度、深度も八十米です。ブラジルのCAMPOS沖で「優秀技術の所産」と言われるENCHOVA油井が百二十四米、MARLIMが千七百九米です。世界最深と言われるメキシコ湾岸のエクソンモービル所有の油田は二千五百八十米です。
技術がどんどん開発されているといっても、まあ、採掘は深度、三千米くらいまででないか?と言うのが、専門家の目下の意見です。ANADARKO(米国)では深度一万米まで掘れるリグがあるといっていますが、掘れるのと経済的に採油できるということは違うことでしょう。
3)自分の利益を第一に守る、これはブラジルに長い人ならよく理解できると思われます。ブラジルは一九九七年までは石油の試掘、採掘などは全部PETROBRASの独占でした。その後、試掘などをリスク契約で外国、民間にも開放したのですが、もっと制限すべきだという意見も出ています。PETROBRASが最近、この海域で試掘した石油井が十五本とも全部「当たり」だったのです。となるとこの海域のボーリングはもうリスクではなく、「確実なビジネス、」ということになるのです。
その関連法規も改訂すべきだ、というのです。要するにこの海域、いままで知られていなかったPRE―SAL層に巨大海底油田があるものなら、これは財産だ。たとえ今すぐ使えないにしても、自分らで抑えよう、こう考えても無理のないことかと思われます。
ブラジルには頭のよい人が多いのです。巨大石油資本;SHELL, BRITISH GAS,PETROSOLなどが既に多数この分野に参入しております。
以上とりあえず、「新油田発見のお話」を申し上げました。それにしても、今すぐお金にならない、将来の夢見たいな話にしても、こういう「面白い話」が出来るブラジルは幸せの国ですね。「ふーん、そうかもしれないな!」と他の人が聞いてくれるのです。ホラを吹こうにも、吹きようもない国の人には羨ましい話ですね。