ニッケイ新聞 2008年5月9日付け
米国生まれの環境・人権活動家で、ブラジル帰化人の修道女ドロシー氏がパラー州で凶弾に倒れたのは二〇〇五年二月十二日だが、六日に行われた、殺害指示者で農場主のヴィタウミロ・バストス・デ・モウラ氏に対する二度目の裁判で、同氏が無罪とされるどんでん返しが起きた。
裁判とその後の反応については七日、八日の伯字紙が報じているが、昨年五月に下された三十年の判決が覆ったことは、政府関係者や最高裁判事、弁護士や非政府団体メンバーほか、宗教関係者、地域農民らを驚かせた。
もともと、パラー州は木材の違法伐採・農地問題などの問題のあった地域で、ドロシー氏の殺害も、自然保護や違法伐採反対活動、地域農民支援などを煙たがる伐採業者や農場主の指示によるものとみられていた。
実行犯として逮捕された通称フォガイオの供述などから逮捕、起訴となったモウラ氏には、殺害者を手配させたうえ、ドロシー氏殺害を指示した嫌疑がかかっていたが、今回の裁判では、実行犯と実行犯手配者が、相次いで供述を変えた。
実行犯(二十八年の刑)は、自分が犯行を企て、犯行には自分の銃を使用したと供述。実行犯手配の通称タット(十八年の刑)は、モウラ氏は無関係と発言するビデオを作り、裁判に提出した。
この二人の供述変化に加え、犯罪専門の弁護士は、パラー州での陪審審議だったことも無罪判決に影響したと分析。検察官は控訴を約し、検察庁は供述変化の背景を捜査する意向を明らかにした。
米国から駆けつけたドロシー氏の兄弟デヴィド氏は「米国関係者に何と報告すればよいのか」と落胆の色を隠せないが、国連への判決結果報告によりブラジルのイメージダウンにつながるとの懸念のほか、パラーでの殺害の正当化や、環境・人権活動家の命の危険の高まりへの懸念も出てくるなど、判決の波紋は大きく広がっている