ニッケイ新聞 2008年5月13日付け
二〇一四年をめどにブラジルで検討が進められている高速鉄道整備計画に、日本側が本格的な売り込みを始めた。官民の事業担当者ら約二十人が十一日に来伯、サンパウロ市内ホテルで十二日午前、日本の新幹線システムを紹介するセミナーを開き、ブラジル側の関連企業や政府関係者ら約百人が参加した。日本鉄道車両輸出組合(JORSA・東京都本部)の主催。日本側が本格的なセミナーを開いたのは今回が初めて。来伯した経済産業省の国友宏俊国際プラント推進室長は「日本と台湾で培った高い技術はブラジルでも受け入れられるものだ」と強調、新幹線システムの導入を積極的にアピールした。
来伯したのは経済産業省の国友氏、国土交通省の川口泉技術企画課補佐官はじめ、JR東日本から二人、JORSAから二人、三菱重工から三人、川崎重工から二人、東芝から三人、三井物産から六人。ブラジル側の現地法人関係者も加わっている。
セミナーでは、それぞれの担当者が新幹線の歴史や安全性、騒音対策のほか、昨年二月に日本の技術支援を導入して開業した台湾の高速鉄道の実績などを幅広く説明。出席者からはブラジルで日本のシステムを導入した場合の課題や問題点などについて、多くの質問が出された。
ブラジルの高速鉄道計画は国家経済成長政策(PAC)の一環として、ワールドカップを自国で開催する二〇一四年の開業を目指している。現在、建設が予定されている駅はカンピーナス、ヴィラ・コポス空港、サンパウロ、グアルーリョス空港、サンジョゼ・ドス・カンポス、レゼンデ、ガレオン国際空港(リオ)、リオの八駅。総距離は五百キロにおよぶ。
セミナーで発表したブラジル三井物産の鈴木雅雄副社長によれば、カンピーナス―リオ間を最速一時間四十四分でむすぶ。サンパウロ―リオ間はノンストップで一時間二十分、各駅に停車した場合は一時間四十一分。一時間あたり八車両編成で五本を運航する計画を立てている。
東芝の江本隆氏は、台湾の新幹線は開業一年ほどで運航数が三倍ほどに増え、利用者も大幅に増加、信用を着実に高めているとしたうえで「日本と台湾で培った新幹線技術はブラジルでも受け入れられるもの」と強調。国交省の川口氏は乗車料金について、「ブラジル政府の事業への関与次第。他国でも低所得者層を考慮して決定している」と述べた。
ブラジル政府が公表している百十億ドルにのぼる総工費について、国友氏はブラジル側の民間企業が調達することが前提としながらも、「大手銀行や日本側が融資するにはブラジル政府の保証が不可欠になる」。
また、「ブラジル政府は高速鉄道整備のために専門の会社を設立しようとしている」と説明し、日本側の官民合同チームがそれらのパートナーとして協力したいとした。
来賓で出席した西林万寿夫在聖総領事は、「日本の新幹線は省エネかつ高品質で大量輸送を可能にした世界最高の技術。移民百周年を機に日本の新幹線システムがブラジルで導入されれば、日伯両国の更なる友好関係を築くことができる」とあいさつした。
訪伯団一行はきょう十三日、ブラジリアの関係省庁を訪れ、新幹線技術の売り込みを図るほか、十五日にリオ州政府関係者にも説明会を開く。