ニッケイ新聞 2008年5月22日付け
カンドンブレと芸者とは不思議な組み合わせだが、仏人写真家ピエール・ヴェルゲルの頭の中では共通した何かがあったようだ▼アフリカ系ブラジル人の文化風俗に魅せられて四九年にサルバドールへ移住したヴェルゲルは、一生を黒人の写真記録に捧げた有名なカメラマンだ。実はそれ以前の三四年、無名の若手時代に日本で取材のために二年間も過ごしていた。その時の写真が「O Japao de Pierre Verger」展としてカイシャ・クルトゥラル(サンパウロ市セ広場111番)で二十五日まで初公開されている▼写真家が日本に向かう船に乗り合わせたのは、世界経済恐慌で米国移住を諦めて帰国する日本移民たちだった。ゴザの上で下駄を枕代わりに甲板で横になる男性、陸地にむかって脳天気に手をふるお父さんの横で不安そうな顔をする少女の写真が印象的だ▼東京、京都、奈良など訪ね、当時の何気ない道ばたの風景を記録に残している。中でも赤線の売春婦たちがあどけない表情で入り口から顔を覗かせている様子の写真などは珍しい▼レアル銀行本店(パウリスタ大通り1374番)大ホールでも展示会「私たちひとりひとりの日本」が始まった。一民間企業がこれだけ力を入れて日本移民展示をするのはかつてない。南米銀行からの伝統を引き継ぐ同行だけに手厚い記念事業だ。通常の吸収合併であれば以前の友好関係を反故にすることもあるのだろうか、この展示会からは変わらない温かい眼差しを感じる▼二つの展示会からは百周年という機会に、ブラジル社会が自らの中にある日系社会を〃再発見〃し、大事にしている様が伺えて興味深い。(深)