ニッケイ新聞 2008年5月30日付け
皇太子殿下が書かれた英国オックスフォード大学留学時代の回想録『テムズとともに』(徳仁親王殿下、1993年、学習院教養新書7、非売品)が、二宮正人さんらの手によってポ語に翻訳され、サンタクルス病院拡張工事の寄付をした人に贈呈されることが二十七日、サンパウロ市のローザ・ロザールンで行われた同病院主催の募金キャンペーン開始式で横田パウロ理事長から発表された。
書名は『Junto ao Rio Tamisa』で翻訳を担当したのは二宮さんとその妻ソニアさん、アウレア・クリスチーヌ・タナカさんの三人。ソニアさんは「確実な意味を伝えることに最大の気をつかいました。殿下が英国で経験したことを、その国に行ったことのない人でも誤解なしに読めるように努力しました」と苦労のほどをのべた。
昨年暮れから作業を開始し、仕事の傍ら約六カ月間かかったという。殿下がオックスフォード大のマートン・カレッジに在籍された八三年からの二年間にわたるいろいろな思い出などをしたためた同書は、〇五年に英語版が出版されているが、ポ語版は初めて。
挨拶にたった横田理事長は日本病院建設には天皇陛下の御下賜金をいただいたご縁があることを強調した上で、「皇太子浩宮徳仁殿下におかれましては、百周年・日伯交流年の記念事業の一環として行われるサンタクルス病院拡張計画に対し、ご寄付を賜ることになりました」と発表した。
ポ語本は、「日伯関係の促進、特に病院拡張計画に多大な貢献した人に差し上げる所存です」という。
皇太子殿下がご来伯される折りだけに、来場者からは驚きと共に「時宜を得た出版だ」との声も聞かれた。
加えて、横田理事長の著書『サンパウロ市生まれの二世たちの眼差し』(日ポ両語、JBC出版)の刊行も発表され、やはり寄付をした人に贈呈される。
この著書は、横田理事長の若い頃の経験を中心に、植木茂彬元鉱山動力大臣や、日系初の弁護士の一人である芳我貞一氏へのインタビューが収められている。サンパウロ市で第二次大戦前後に思春期を過ごした二世たちは、どのような想いでその時代を過ごしたのか、そして、どんな過程をへて国家的な経済政策の中で重要な役割を担うようになっていったかを描いている。
開始式では、若かった横田氏を中央銀行理事に抜擢するなどの強い絆を持つアントニオ・デルフィン・ネット元財務大臣も出席し、「私もこの病院を使っている。素晴らしい病院であり、みんな協力しよう」と呼びかけた。その他、父親が同病院の創立期に医師をしていたルイス・パウロ・ローゼンブルゲ氏も舞台にあがり、「日本人は売り込みが上手くない。私はユダヤ系としてマーティングの面で協力していく」と語った。