ニッケイ新聞 2008年5月31日付け
最高裁は二十九日、人間の幹細胞実験を容認する判決を賛成六票、反対五票で下したと三十日付けエスタード紙が報じた。医療目的の実験は連邦令が定める生命の尊厳に抵触しないとする見解を最高裁が示唆し、宗教家と科学者の三年にわたった論争に終止符が打たれた。これまで不治の難病とされた数々の疾患に、新たな希望がもたらされることになる。
受精卵の幹細胞はどの時点から人格と見なすかで、十九時間にわたって延々と行われた審理は、全国の関係者が固唾を呑むなか、幕がおろされた。しかし、誰もが関心を持っている生命の定義については、最高裁の誰も触れなかった。
受精の瞬間から人生が始まるとする宗教界の見解は、取り入れられなかった。カトリック教会を代表したフォンテレス元検事総長は、これで検察庁を去るという。
既に幹細胞実験を容認している二十五カ国に、ブラジルも仲間入りする。これまでは、研究費が支給されず、関係者や政治家、一般市民の理解を得るために、多大な時間と労力を費やした。
学会は二〇〇八年中に、幹細胞の国産原々種と原種の類別、系統別整理を至急行う。ブラジルはこれまで、違法とされたため外国の原種を使っていた。違法行為による告発を恐れて中断した数々の実験や資金難で無念の涙を呑んだ研究が、蘇生するようだ。
動物実験で成果を挙げている例もたくさんあり、最高裁判決が臨床人体実験にも及ぶのか、判然としないところもある。細則に関する補足決定が出るのを待つという学者も多い。
これからは、民間の幹細胞研究にも拍車がかかる。幹細胞の応用範囲は、実に広い。身体のどの細胞にも適用できる幹細胞と一定臓器の細胞を組織する幹細胞に大別することができる。
一定臓器の細胞として注目されるのは、神経系統を再生する脳細胞や視力を失った人への眼球、心筋梗塞で心臓の一部が損壊した疾患者の組織培養、脊髄、すい臓、性器、骨などの臓器増殖研究である。