ニッケイ新聞 2008年6月3日付け
五月十九日から二日間、サンパウロ市のメモリアル・ダ・アメリカ・ラチーナでサンパウロ州政府主催の国際シンポジウム「南米における日系人の存在」が行われ、各国の発展に尽くした日系人の貢献が報告された。全体のコーディネーターは本山省三USP教授が担当した。
開会式で元州財務長官の中野慶昭(よしあき、二世)ゼッツリオ・バルガス大学教授は、「百年ちょっと前に共和制宣言(一八八九年)をした若いブラジルにおいて、今年百年を迎える日本移民の存在はその国家や国民アイデンティティ形成に強い影響を与えている」と語った。
その実例として「勤勉さ、誠実など特に日本人が多く入ったサンパウロ州においてそれは顕著だ。他州にいけばポルトガル基層文化の特有の仕事は富を生む手段というわりきった雰囲気になる。そのサンパウロ州がブラジルを引っ張ってきた」とあいさつした。
共和制宣言と共に近代国家への道のりを歩きはじめたブラジルにとって、一九〇八年に始まった日本移民導入は、まさに国家アイデンティティ形成と共にあった。日本移民の歴史は日本の近代史であると同時にブラジルの建国史でもある。ブラジルという西洋社会の一角を通して、日本国民は欧米の世界史の一部に血縁を作っている。
USPで昨年まで副学長を務めていた平野セイジ教授も「日系人の人口比率は少ないが、学生の一八%、教師陣の八%は日系人だ」と胸を張った。
一つ目のシンポでは、基調講演として汎アメリカン日系人協会の笠松フェリックス会長が、南北米全体の日系人の歴史と現状を俯瞰し、「現在は南米全体から計三十五万人が日本に働きに行っている」と語った。
続いて、森幸一USP教授が日系研究を概説し、日本食普及の現状に触れ、「こちらの寿司は日本文化の産物ではなく、日本を起源とするブラジルで生まれた文化だ」と語り、日系人は新しいブラジル文化の創造に貢献していると語った。
サンパウロ州立大学(UNESP)の坂手実教授は、学長を日本に連れて行ったときに日本側から「前向きに検討する」と返事されて、学長が「冷たい。ブラジルならまず『やろう』といってからやり方を考えるのに」と言った例を出し、日伯の思考様式の違いなどを論じた。
このように二日間に渡ってチリ、メキシコ、アルゼンチン、ペルー、パラグアイなど十のテーマでの議論が次々に行われ、最後に州政府から県連、エスペランサ婦人会、日伯文化連盟、日系研究者協会などの日系団体が顕彰された。