ニッケイ新聞 2008年6月10日付け
宮内庁は九日、天皇皇后両陛下が、ブラジル日本移民史料館が進める史料アーカイプ・プロジェクトに寄付をされると発表した。発表によれば、移民百周年にあたり両陛下が「ブラジルの日系人社会のために何か具体的にできることはないか」と希望されたことを受けて日伯両国の関係者が検討、最も時宜を得ているとして同プロジェクトへの寄付が決まったという。両陛下の金一封は百周年でブラジルを訪問される皇太子殿下に託され、皇太子殿下が史料館を訪問される際に同館側へ渡される予定だ。
アーカイブ・プロジェクトは史料館の設立三十周年を記念して計画されたもの。同館が所蔵する約九万点の史料(文書、写真、物品など)をデータベース化するとともに、インターネットを通じて一般に公開することを目的としている。
四年計画で、予算は約三千万円。プロジェクトは今年四月に始まっている。小笠原公衛JICAシニアボランティアによれば、日本の専門家にも協力を求める予定で、現在実行委員会で史料デジタル化の実験を含め計画を詰めている段階だ。
同プロジェクトに対しては今年二月、日伯修好百周年基金から二十五万五千レアルが助成されることが決まっている。
同館では現在、文書や写真、小さな物品などを文協ビルの事務所、展示室の一部で保管。大きな物品は昨年中ごろから、サンロッケの国士舘スポーツセンターの倉庫を改修して保管している。ただ、どこにどの史料があるのかについては、長年勤務する職員の「経験に頼っているのが現状」と小笠原さん。
同プロジェクトにより実物を触ることなく史料が閲覧できることから、史料の劣化や破損、紛失を防ぐことが期待される。さらに、両国専門家の共同作業を通じて、日伯間で移民史・日系社会研究のすそ野を広げることも目指しているという。
今回の決定について小笠原さんは、「皇室の方が移民の史料ということを本当に考えてくださっているというのは、たいへんなことだと思う。文協としても史料館はお荷物ではなく、文化財、宝であることを認識してもらえたら」と話す。
皇室からの下賜金は一九三四年、日本病院(現サンタ・クルス病院)の建設に対して五万円(当時)が出されている。古参の元文協役員によれば「それ以来ではないか」という。そうであれば、実に七十四年ぶりということになる。
文協創立会員の原沢和夫さんは、「百周年を迎えるにあたっての、両陛下の移民に対する御心のあらわれだと思う。ありがたいことです」と感慨を表した。
九日に総領事館から連絡を受けたという栗原猛史料館運営委員長は、「三十年間でたまった史料の劣化を防ぐという、今必要なプロジェクトに御下賜金がいただけるというのは本当にありがたいことです」と喜びのコメントを寄せた。