ニッケイ新聞 2008年6月12日付け
面白い世代が台頭してきた。先日、日本でともに活躍する演歌歌手の南かなこ、大衆演劇「響ファミリー」の公演をみた。両方とも二〇代の若い日系三世であり、公演のしゃべりの最中に自然なポ語を混ぜる。日本で本格的に芸能活動をする日系人が〃凱旋〃する姿は実にすがすがしい▼もちろん普段、日本ではポ語を混ぜてしゃべるなどあり得ないだろうが、ブラジル公演に限っては特別だ。観客にも高齢二世がかなりいるから、そのような演出に強い好感を持っているのが反応から分かる。単語だけをポ語から借用するのではなく、文章まるごとを日ポ両語使い分けるバイリンガル公演だ▼両者に通底するのは、日本の伝統的な芸能活動を踏襲し、その基礎を子供時代にコロニアで習得している点だ。その意味で、コロニアから巣立って日本で羽ばたいている世代といっていい▼日本で磨かれた芸はやはり洗練されていると感じる。かつては、日本仕込みの第一線の芸を一世が見せている時代があった。今では三世が日本仕込みの芸を見せる時代だ。これはコロニア芸能人の指導者にとって、その弟子がプロとして日本で活動する道が拓けたことを意味する▼南かなこはポ語に訳した演歌を見事に歌い上げ、響ファミリーは無言劇という言葉を使わない演劇をみせた▼ともにブラジル人一般、いや国際的にアピールする質を持っている。この方向性をさらに発展させてほしい。日本発の伝統文化を日系人が独自に発展させ、ブラジル社会をテコに世界に発信する芸能活動だ▼両公演ともに見応えがあるだけでなく、百周年に相応しい意義深い公演だった。(深)