ニッケイ新聞 2008年6月21日付け
欧州連合(EU)議会は十八日、不法移住者が自主退去しなければ、一年半以内の拘束、域内再入国禁止など、これまで以上に厳しい内容の域内共通基準を採択した。これは、八百万人といわれる域内不法移住者を排斥するためで、十九日付け伯字紙によれば、二〇一〇年から施行される。
人権団体などからも批判が出ている同法だが、主な内容は以下の通り。まず、入国監査時や滞在中に不法移住と判断された者に文書による国外退去勧告。受け取った外国人が七~三十日の間に自主退去しなければ、退去命令となるが、逃げ出す可能性があれば、逮捕令状がなくても拘留。拘留後は裁判もなく、一年半以内に強制送還となる。
ただ、拘留は、逃げ出すと判断された場合だけでなく、退去準備を嫌がる、要求された書類を提出しないなどの場合にも適用される。保護者同伴でない未成年も退去対象だが、子どものいる家庭や未成年者のみの場合、拘留は最終手段とされ、拘留期間も短縮される。
また、強制送還者は五年間、EU諸国への入国禁止。危険人物とみなされた場合などは禁止期間延長もある。
この域内共通基準可決には、フランスなど、拘留期間が短い国からの反対や、不法移住者の裁判費用は滞在先国負担との条項への抵抗などがあったが、裁判費用の件は七億ユーロの域内基金が作られ、解決した。
EU諸国では近年、年二万五千人の不法滞在者排斥を目指すフランスなど、移住問題には敏感な国が増えていた。また、米国不況で、強いユーロに引かれた移住希望者増加も背景にある。
ちなみに、EU域内で昨年、不法滞在で摘発されたブラジル人は一万七千人。スペインでは、十八日逮捕の十六人を含め、一年間にブラジル人の書類偽造グループが十二件摘発されている。ブラジルからの不法移住者は、イラクや中国、トルコに次ぎ四番目に多く、昨年、空港で入国拒否にあったブラジル人も九千四百十人に上った。
新基準に対し、ラ米諸国は一様に不満を表明したが、二十日エスタード紙によれば、ベネズエラのチャベス大統領が十九日、EUへの石油輸出制限と発言。これに対し、電子版フォーリャはEU対外治安問題担当官がチャベス氏の発言は的外れとの論評を報じた。
一方、米国の不法滞在者摘発も続いており、十八日にもロールアイランド州で二十九人のブラジル人逮捕。市内から多数のブラジル人不法滞在者たちが逃げ出した、と十九日伯字紙が報じた。