ニッケイ新聞 2008年6月26日付け
立ち退き、接収、そして返還――。歴史の波にほんろうされてきた旧サントス日本語学校校舎が、日本文化センターとして新たな一歩を踏み出した。二十一日朝、改修を終えた同センターで皇太子さまご臨席のもと落成式を挙行。遠藤浩サントス日本人会長は、「これからは日本語学校を軸に、サントスで日本文化を伝えていきたい」と決意を語った。
一九二八年ごろに開校、地元日系社会のよりどころとして最盛期には二百人の生徒たちが学んだサントス日本語学校。同地日系人の汗の結晶だった同校も、四三年、ブラジル政府から沿岸地域の枢軸国人に対し二十四時間以内の奥地への立ち退き令が出されたことにともない接収された。
戦後の返還運動が実り、所有者であるサントス日本人会に建物の使用権が認められたのは、六十三年後の二〇〇六年。日本人会では今年一月に日本政府から約八万五千ドルの草の根無償資金を受け、文化センターとして改修を進めてきた。
老朽化した屋根は全て取り替え。壁は白く塗り替えられた。一階部分は小部屋に区切られ、日本語、日本文化の教室として使用される予定だ。
サントスへの皇室ご訪問は、五十周年で三笠宮殿下が訪問されて以来、二度目。皇太子さまご臨席のもとセンター二階で行なわれた落成式には、島内憲大使、西林万寿夫総領事ら日本政府関係者、日本人会の六十歳以上の高齢者など百人が出席。午前十時五十分ごろ、皇太子さまの車が到着すると、入口ではサンビセンテ子供会の子供たち十人が縦笛で君が代を演奏し、出迎えた。
遠藤会長は、「着の身着のままで親戚や同船者、知人を頼って奥地へ移転した」の強制立ち退き、戦後の返還運動の歴史を振り返り、「使用不能の状態だったのが、改修が終わり、ようやく落成の日を迎えた。これも日本政府のおかげです」と感謝の意を表した。
島内大使も「センターが新しい友好のシンボルとして、サントスの日本人、日系人の心のよりどころになることを願います」と祝辞を送った。
遠藤会長と島内大使により記念プレートを除幕して落成式は終了。皇太子さまは出口で子供や地元の人たちに気さくに声をかけられ、次の予定行事に向かわれた。
着物姿で出迎えたライス・アイカ・オナガちゃん(三世、7つ)は、皇太子さまから着物を誉めてもらい、嬉しそうな表情。母親のアレクサンドラさん(36)も「こんなに近くで皇太子さまにお会いする機会は一生に一度でしょう」と喜んでいた。
二十年間にわたり日本人会長として返還運動の火を灯し続けた上新さん(86)は、落成式でサントス日系社会の歴史を綴った自著を皇太子さまに献上し、「ごくろうさまでした」と声をかけられたという。この日、返還後はじめて建物を訪れた上さんは「みなさんのおかげ。よくやったなという気持ちです」と感無量の表情を見せた。