ニッケイ新聞 2008年7月15日付け
読書好きで自発的に本を読むという人が少ないブラジル(五月二十九日既報)だが、親が本好きな家庭の子は、読書好きになる傾向があり、四歳までの習得語彙数がその後の学習習熟度を左右するなどの研究もある。その意味で、幼いうちから文字や言葉に触れる経験は、その人の人生の基礎を作り、人生を変える経験ともなりうる。
幼児期の読み聞かせの大切さは世界共通だが、十四日エスタード紙紹介のデウザさんの自宅図書館は十四年前に開設。蔵書は三千冊と小さいが、サンパウロ州グアルジャのアレイオン地区(二千二百家族在住)で、デウザさんの図書館に出入りしていた子ども二人が大学進学。デウザさんの長女も法学部を目指している。
長女が小学校に入った時から開設した図書館の本は、古本屋で購入したりコピーを取ったりしたもの。教科書や副読本、百科事典、ロマンスなどが揃い、貸出しも行う。一人一人、興味の対象も読む速度も違うため、貸出し期日は設けないが、化学や生物学など、学校でレポートを書くための貸出しも多いという。
地域に公立図書館がないという市町村も多いブラジルだが、十一日エスタード紙によれば、学校に寄贈される図書も、書籍管理の責任者がいない、専用スペースがないなどで山積みのままのケースもある。学校の多くも生徒が書籍に触れる機会を作ろうと工夫しているようだが、十四日フォーリャ紙によれば、二四%の市町村で公立保育所不足。幼少時から書籍に触れる機会は決して十分とはいえないのが実態だ。
また、同紙には、保育所は子どもの学習能力向上と母親の収入増加に寄与との報告もある。以前、保育所が増設され、道路で遊ぶ子どもが減れば、不慮の事故も減少するとの記事もあったが、保育所や図書館などの充実は、知的環境面だけではなく、地域との触れ合いや子どもを危険から守る意味でも意義がある。
そういう意味で、地域の子どもや青年のために書籍や人との触れ合いの場、年上から年下への知恵や文化伝達の場を提供しているデウザ家。家政婦として働く一方、近所から集めた使用済み油で作った石鹸を売り、生活の足しにしているというデウザさんの家庭が、地域に与えている恩恵は計り知れないものがある。