ニッケイ新聞 2008年7月25日付け
世界貿易機関(WTO)のドーハ・ラウンド(多国間交渉)に関心はあるものの、ステファネス農相は二十三日、無用の長物となったWTOから脱退も辞さない意向と表明したことを二十四日付けエスタード紙が報じた。農相は、「無力なWTOに期待はできないが、市場自身が問題を解決する」と述べた。
「ドーハ・ラウンドではアモリン外相が逆流の中を孤軍奮闘しているが、WTOは何の役にも立たない。食糧危機を解決する道は、農産物市場の開放であり、食糧増産の癌である農産物補助金制度の廃止である。同会議は美辞麗句で声明を発表し閉幕するが、数字のアソビに過ぎない」と農相が酷評した。
ドーハ・ラウンドは、現実の問題に取り組んでいない。先進諸国のアソビ場になっている。先進諸国の考えていることは、無意味。有効な措置など不要。来る十年に起きる食糧需要の爆発に対処するには、先進諸国が投じる莫大な農業補助金を止めること。
しかし、先進諸国にとって農業者保護は安全保障問題であり、農産物市場開放は本丸を明渡すようなもの。長期にわたって農業過保護政策を続けたツケが、いま回ってきたといえそうだ。ドーハ・ラウンドは全面的市場開放を叫ぶが、先進諸国は詭弁でごまかすしかないようだ。
農業政策の専門家である農相が、農産物問題を解決するのは、WTOではなく市場だという。世界はやがて、雲霞のごとき飢餓難民を前に、補助金制度の廃止は避けられないと悟るという。
ドーハ・ラウンドの合意内容には、ブラジルの産業界もメルコスル加盟国も不満をぶつける。ドーハ・ラウンドは、外交辞令のレベルで解決できる場所ではない。ルーラ大統領は農相の報告に接して「シュワッブ米代表もマンデルソンEU代表も、交渉の素人である」と糾弾した。
欧米代表は押し売りに徹し、妥結案を提示しない。両者の人生は交渉体験がなく、相手が好むと好まざるとに関わらず、ご馳走は口へ押し込むものと思っている。
現状ではドーハ・ラウンドは決裂し、各国は自分のまいた種を刈り取ることになる。食糧危機という重大な問題を前に、ブラジルは全てを包括できる用意があると大統領が宣言をした。