ニッケイ新聞 2008年7月29日付け
アモリン外相の孤軍奮闘で大詰めと思われたWTO(世界貿易機関)のドーハ・ラウンド(多国間交渉)は二十七日、同会議初顔の中国代表が農産物の障壁削減を拒否したことで、合意は困難視されるに至ったと二十八日付けエスタード紙が報じた。中国の硬化に乗じて米国も、補助金削減の当初案を撤回した。
アモリン外相は、ドーハ・ラウンドの最終日を迎え、「まだ沈没していない船が減っただけ」だと述懐した。同会議は、国際経済における中国やインドの実力を新たに認識する機会となった。
中国はドーハ・ラウンドで一定の成果がえられたので、あとは歯牙にかけないしたたかな計算があったようだ。インドは約百カ国の途上国を率いて農産物の新たな障壁構築を達成した。ブラジルは、現行システムから一歩も出ていないので貧乏くじを引いた。
シュワッブ米代表は、七年の歳月をかけて貿易自由化を議論したドーハ・ラウンドの努力を途上国がゴミ箱に捨てないよう訴えた。これからのブラジル外交は、中国やインドを計算に入れた戦略を練る必要がある。今回は両国に前以って打診をしたものの、計算を間違えたようだ。
ドーハ・ラウンドの最終局面とはいえ、根回しが不十分なまま開催した重要会議であった。初三日の準備会議は成功には程遠いものであった。会議の主役は、欧米対ブラジルで、その他はエキストラの集まりだ。
欧米案は現実性に乏しい取るに足らぬ内容で、これだけで会議の座礁は予想された。それにフランスや中国、インドなど農業政策でブラジルと立場を異にする小物がいて不利な会議であった。
小者らは発言の機会を与えられず、リングの試合を観戦しながら最終表決の時を待っていた。ブラジルが頼りにしたG20は、インドに浚われた。これで無力緩慢なWTOは三年位、体力快復まで何もできない。
WTOには国際貿易にかける意欲がない。七年間にわたる交渉で気力が尽きたらしい。バカな協定を締結するより、空白のほうがよい。これからは輸出国が団結して保護主義撤廃へ向けたロビー活動を行いながら市場を広げるようになる。