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ドーハ・ラウンド=通商戦略の的を絞る=農業政策は死活問題=生産者保護が世界的傾向=ブラジルに残された道?

ニッケイ新聞 2008年7月31日付け

 七年間にわたって国際貿易の障壁削減を協議した世界貿易機関(WTO)のドーハ・ラウンド(多国間交渉)は二十九日、合意に至らないまま閉幕と三十日付けエスタード紙が報じた。再開は二〇一〇年以後になる模様。ブラジルは成果を期待できる戦略で、貿易政策の的を絞ることになる。
 ブラジルは座長として七年にわたり国際貿易の不合理を訴え、各国首脳に電話をかけること数百回、そのために足を運んだ回数は数え切れない。しかし、WTO交渉は失敗に終わったらしい。
 目的は、市場開放と自由貿易への露払いであった。自由貿易の旗頭である筈の米国と体制不備な国々の反対で、ブラジルの努力は水泡と帰した。ブッシュ米大統領は大統領選を控え、WTO合意に保留を選んだ。
 今は何故、ドーハ・ラウンドが沈没したのか考えて見ることだ。ブラジルと米国、日本、中国、インド、オーストラリア、EUの主要七カ国が討議したのは、死活問題であって第一ラウンドも最終ラウンドもないサバイバル合戦である。
 ステファネス農相の忠告「WTO交渉は時間の無駄」は、一理ある。世界最大の食糧消費国が、ブラジル農産物のために市場開放をするよりは、ドーハ・ラウンドでノラリクラリしている方が得策と考えたのだ。
 ブラジルが交渉に失敗したからと、二国間交渉へ向かうなら混乱を招く。二国以外の未交渉市場は疎遠になり、貿易が困難になる。だからWTO交渉を失敗とするのは、早計といえる。
 ドーハ・ラウンドは、完全終了したわけではない。部会協議は政治的根回しをすれば、いつでも再開できる。決裂した国際会議は、一度膿を出さないと快方へ向かわない。完全に膿みきっていなければ、まだ痛む。
 世界は益々、保護貿易に向かう。米大統領選の二候補は、農業を最優先課題にしている。サルコジ仏大統領も頭の中は、農業しかない。農業政策即生産者過保護だ。中国とインドはまだ、それほど過激ではない。
 各国は協定へ譲歩を求めるが、どこの国も特殊事情があり自分のことは自分で解決するしかないことを悟る。誰が自由貿易の敗戦国になるか。米ドルは国際通貨の地位を得たが、保護貿易で時代に逆行している。
 ブラジルの産業は、国際市場で各国の保護政策と戦う。ブラジルが期待する食糧大消費市場の中国とインドも、まもなく米国と同じような保護政策を打ち出す。ブラジルの出番は、本格的な食糧危機しかないようだ。