ニッケイ新聞 2008年8月1日付け
ドーハ・ラウンドの決裂は、猛獣が檻から放たれたも同然である。米政府による農業補助金の猛威を警戒せよと外務省が三十日に予告、と三十一日付けエスタード紙が報じた。ブラジルを始め、世界の農業生産者をなぎ倒すような巨額の農業補助金を米国は、生産者にばらまく。アモリン外相は、やり場のない憤りを感じているらしい。
ブラジル外交の是非について、議論百出。先進国の狡猾な外交戦略に、アモリン外相は嵌められたらしい。敗北を喫した外相は「これからは実のある外交戦略に専心する」と敗軍の将、兵を語らずの呈である。
これまでのブラジル外交は、理想論に走ったようだ。G8サミットに大統領が招かれたとき、ブラジルの主張は国際情勢から浮いていたことに気づかなかったのか。
頼りとする中国やインドにさえ、見離された。ブラジル外交は、G8との調整よりも中国やインドの特殊事情に配慮すべきであった。
ゴンサウヴェス駐WTO大使の「ブラジルの先進国と途上国という物の見方は、時代遅れ」という言葉が分からなかったらしい。今は、どこが富裕国で、どこが貧乏国、という区分ができない時代だ。
ブラジルは、イデオロギーに賭けたとしか思えない。国際外交においてイデオロギーは、石鹸の泡みたいなもの。それに価値観を抱く人間の集まりなら別だ。
ルーラ政権はこれから、対アジアや対EUの二地域間交渉に向かうようだ。二国間交渉で地域格差の調整をするより、多国間交渉で解決する策を外務省は採ったらしい。それで二国間交渉に関心を示さなかった。米国はFTAA(米州自由貿易圏)など遠の昔に忘れている。
ブラジルは、ドーハ・ラウンドでタイミングを間違えた。ブラジルのミスはそれだけではない。メルコスルでも同じ愚をやっている。メルコスルという足枷を外し、積極的に独自の通商戦略を展開すべきだ。
同盟国の亜国が、中国やインドと歩調を合わせたことで外交のあり方が分かったはずだ。これからは、巨額の補助金と長期融資で武装した穀類やバター、牛肉がブラジルの得意先を荒らし回る。