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停滞する史料館改修=バストス=市「予算の都合で延期」=貴重な資料どう守る=水野龍の直筆日記も

ニッケイ新聞 2008年8月2日付け

 【バストス発】バストス入植八十周年プロジェクトとして進められている「山中三郎記念バストス地域史料館」の改修事業が、難航している。地元のバストス日系文化体育協会では、ルアネー法(企業が所得税の一部を文化事業に充てることが出来る免税制度)を活用し寄付を集める方向で検討していたが、実行には至らなかった。そして先月二十二日、建物の持ち主である市から「今年は予算の都合で改修工事は行わない」と発表があり、最終的に年内の同史料館改修は見合わせ。来年に持ち越しとなった。貴重な資料を多数所蔵する同史料館。今後どのように保存し活用してゆくのかが問われている。
 約八千点の写真と約六百点の物品資料を保管しているバストス史料館。しかし、シロアリ被害や雨漏りのため展示が難しく、警備もままならないのが現状だ。
 同館には、〃移民の父〃水野龍(皇国殖民会社社長)の残した航海日記、名刺などの小物と、衣類などの物品が保存されている。未亡人水野万亀さんから九六年から九七年にかけ、当時の館長山中三郎氏に知人を通して寄贈されたもの。現在は展示環境が悪いため、倉庫で保存されている。
 その中には、一八八九年(明治十二年)から、亡くなった一九五一年(昭和二十六年)までの、水野直筆の手のひらサイズの日記や、雑記も含まれる。一九〇八年の「笠戸丸航海日記」は、すでに立教大学ラテンアメリカ研究所のプロジェクトによってデジタル化されているが、公開には漕ぎ付けていない。
 JICA青年ボランティアの同史料館学芸員・宮良長さん(32、沖縄)は、この研究が進めば「水野の新しい業績や人生の波が分かるだろう」と、新たな史実の発見に期待を示す。
 しかし実際にはデジタル公開するための基盤が整っておらず、サイト運営人材費用などの資金面を含め、関係者の理解を得るのが難しいと問題を指摘する。
 水野の「笠戸丸航海日記」は長年、その所有と保存場所において論争が起こってきた。そして近年水野の業績が再評価され、歴史的価値が高まってきている。地元関係者の中には、「史料館が所有し続けるならば、コロニアの貴重な資料として公開できるよう、早急に環境を整えるべき」と話す人もいる。
 保管資料の仕分けや記録を進める宮良さんは、「とても地味な作業だが、未来へ歴史を引き継ぐために、将来興味を持った移民の子孫が、きちんとアクセスできるようにしておく」のが使命と、コロニアの未来を見据えている。