ニッケイ新聞 2008年8月8日付け
「夜道にたむろしているデカセギ子弟を救いたい。サンパウロ州政府にも協力して欲しい」。静岡県浜松市で空手道場を経営する児玉哲義さん(42、二世)は七月二十二日、サンパウロ州スポーツ・レジャー観光局にクラウリ・アルベス・ダ・シルバ局長を訪ね、スポーツを通したデカセギ子弟教育などに協力を依頼し、「積極的に考え、具体化していこう」との好感触をえた。
「ブラジル人の少年犯罪の多さにショックを受けました。警察署の鉄格子の向こうで泣いている姿を見て、警察官が言うことを何の感情も交えずに翻訳するのでなく、直接に語りかけたい気持ちになりました」と訪日当時を振り返る。
サンベルナルド・ド・カンポ市に生まれ、十四歳の時に森山道場に入門し、空手の修行をはじめ、黒帯まで取得した児玉さん。二十五歳の時に静岡県浜松市に空手の修行に訪日し、タクシー運転手をする傍ら、警察のポ語通訳のボランティアもしていた。
鉄格子の向こうのデカセギ子弟をみて「何度も泣きました」という。「自分には空手しか教えるものがない。悪い道に入る前になんとからないか」と思って、空手教室を始めた。
最初は体育館を借りていたが、〇五年から士道館児玉道場を構えるまでになった。キックボクシング、カポエイラ、ブラジリアン柔術も教える。
現在、九十人いる生徒の半分がブラジル人、四五%が日本人、残りが他の外国人だという。
毎週一回、日本人ボランティアら三人と一緒に夜、浜松市内を〃夜回り〃している。道々、道路にたむろしている外国人子弟に声をかけ、話を聞き、道場での活動に誘ったりしている。
「この活動を初めてから非行が減ったといわれます」と嬉しそうだ。「親は残業ばかり。家にいてもつまらないから、子供たちは道でぶらぶらして、同じ境遇の友だちとたむろするようになる。親子の絆や会話、友だちが欲しいだけなんです」と代弁する。
百周年式典に参加するために訪日していたシルバ局長は四月二十七日、児玉さんの空手道場を見学した。「大変実りある視察だった。彼の仕事には特別な価値がある」と局長はいう。
リオでブラジル外務省が開催した在外ブラジル人コミュニティ会議に出席するために一時帰伯した児玉さんは、局長に面会を申し込み、一時間近く懇談。十一月に日本で行われる百周年記念の空手世界大会への招待状を手渡したが、「十月の選挙が終わったばかりでちょっとムリ」と断られた。
しかし、局長は「ブラジル人子弟が麻薬や犯罪、売春に行く前にスポーツを通して更正しようとしている。スポーツ局としても教育面で、何か支援できないかと考えている」と真剣な表情を浮かべ、「おそらく百年前と同じ事が、今日本で起きているのだろう」と語り、前向きに検討することを約束した。