ホーム | ブラジル国内ニュース(アーカイブ) | リオの高台に女性の壁画=家々に描かれる顔、顔、顔=暴力被害者の近親者を追う

リオの高台に女性の壁画=家々に描かれる顔、顔、顔=暴力被害者の近親者を追う

ニッケイ新聞 2008年8月16日付け

 イスラエルやパレスチナでも市民の写真を壁画としたフランス人写真家が、リオ市プロヴィデンシア丘の女性たちの顔をファヴェーラの家の壁に描き出していると、十四日エスタード紙や十五日フォーリャ紙が報じた。
 リオ市プロヴィデンシア丘といえば、六月に起きた三青年惨殺事件が思い出されるが、今回、同地区の家々に描き出されている女性は、警察や軍が絡んだ暴力事件被害者の近親者で、惨殺された青年たちの祖母やいとこも含まれている。
 壁画作製の中心である写真家JR氏(本名は未公開)は、ヨーロッパやアフリカから写真を撮り続けている〝女性〟プロジェクトの一つで、リオでは、プロジェクト完成までは協力者名なども極秘だという。警察と麻薬密売者の銃撃戦の真中に立ったこともあるというJR氏は、組織関係者や麻薬売買の拠点は撮影しないということで密売者たちの了解も得ており、地域からのボランティアも参加し、住民も壁面使用を認めるなど、地域には受容れられている。
 〇七年にはイスラエルとパレスチナでの市民の壁画も作製したというJR氏だが、内戦下での壁画作製は社会的論議も呼び、テログループやパレスチナ警察、イスラエル軍からの誘拐や脅迫の目標とされたともいう。
 社会派の写真美術家を認ずるJR氏がリオ市のファヴェーラに白羽の矢を立て、警察などによる暴力の被害者を対象にした背景は語られていないが、赤十字によるリオは戦争状態との評価、プロヴィデンシア丘の青年惨殺事件が起きたこと、麻薬密売組織との銃撃戦などが頻繁で、リオの警察官による殺害は世界一多いことなども関係あると考えられる。
 十四日フォーリャ紙では、青年惨殺事件で三青年を密売組織に引き渡した軍人たちの地域駐留の原因となったシメント・ソシアウ・プロジェクトは、市の中心に近い同地域は目に付き易く、市長選への宣伝効果を狙った企画で、軍の投入も不要であったと思われるという報告書が下院の委員会に提出されたと報道。
 悲しみや憂いを胸に秘めた女性たちの顔が町を見下ろす中、リオ市民が何を考え、どう行動するかは不明だが、壁画の写実性や芸術性とともに、社会の矛盾や暴力、悲しみなども受け止められる社会になれるだろうか。