ニッケイ新聞 2008年8月20日付け
日本の日本人にとって一般的に「日本人」であることは自明で、「日本人に生まれた」と運命的に感じているだろう。
「日本人」であることは、性別などの属性と同様にアイデンティティの根幹を成している。「××社営業部長」「三重大卒」などのようにその時の努力で変わる肩書きよりも、より基底をなす要素と認識されている。
でも、本当に「日本人」という境界はそんなに強固なものなのか。
『大辞林』(第二版、三省堂)では、日本人とは「日本国籍をもつ者。日本国民」と定義している。『広辞苑』(第四版、岩波書店)ではやはり「日本国に国籍を有する人」としつつ、さらに「人類学的にはモンゴロイドに属し、皮膚は黄色、虹彩は黒褐色、毛髪は黒色で直毛。言語は日本語」と身体的、言語的な要件を付記している。
つまり、日本人であるためには日本国籍をもち、日本語をしゃべって、日本人顔をしている必要がある。
ところが、移民や日系人という国境を越えた視点からみると「日本人」「日系人」「外国人」の間には数限りない多様な人材がいる。
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その最たる存在は先の参院選挙に立候補したアルベルト・フジモリ元ペルー大統領だろう。日本政府も公認する二重国籍者だ。
人気歌手の宇多田ヒカルも微妙な存在だ。『ウィキペディア(Wikipedia)』によれば、「出生地がアメリカだったため、歌手デビュー後まで日本とアメリカの二重国籍であったと本人が発言している」とある。彼女を「日系二世」と表現する人はあまりいないが、帰国子女と二世の境界線もまたあいまいなところがある。本人の意志よりも、親の滞在資格に関係する場合が多い。
一般的に親が進出企業に勤めていれば帰国子女となるが、駐在三十年という場合もあり、その間に生まれ、ブラジルで人格形成した子供のケースなどでは、自己認識次第で「事実上の二世」といっても差し支えない。
逆に、移住期間が十年で帰国したとしても、ブラジルで生まれた子どもは、ブラジル籍を持つので二世と呼ばれる。デカセギブームにのってかなりの戦後移住者が永住帰国し、ブラジル籍を持つ子供を日本の公立校へやった。両親が日本人で、家の中では完全に日本語で育ち、頭の中は「事実上の日本人」であっても「二世」といわれる。
また、両親が純血三世のデカセギ子弟の場合、日本で生まれ、日本の公立教育を受けて、見かけも頭の中も「事実上の日本人」に育ったブラジル籍の四世があちこちにいる。
別のケースでは、日系二世の父が日本にいる間に日本人女性と結婚して生まれた二重国籍の娘の例もあった。彼女は日本で生まれ、小学校を終えた頃に両親にブラジルに連れてこられた。
自分では「日本人」と認識しているが、両親は「あなたは日系三世」と言い聞かせている。本人次第でどちらにもなれるが、彼女は最終的に訪日して日本人と結婚し、明確に「日本人になる」ことを選んだ。
このように、移民や日系人側から見た時、日本の日本人が思っているほど「日本人」という境界線は明確ではない。
振り返れば戦前の移住地などでは日本人ばかりの中で生活し、二世たちは「日本人になる」「日本人として生きる」ことが当然であったし、逆もまた真で、コロニアから出て「ブラジル人になる」ことも意図的に行われてきた。
移住者コミュニティにおいては「○○人に生まれるもの」ではなく、国籍よりも実体が優先され、「○○人になる」という考えが強かった。
(続く、深沢正雪記者)
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